LINEは2019年8月より、アドネットワーク事業として「LINE広告ネットワーク」を開始しました。パートナーパブリッシャーとして参画する株式会社AbemaTV(以下、AbemaTV)は、LINEのアドネットワーク事業をどのように見ているのでしょうか。
同社の広告本部本部長と株式会社サイバーエージェントの取締役を兼務する山田陸氏に話を伺いました。
開局から3年――「1,000万WAU」を達成したAbemaTV
2015年4月、サイバーエージェントとテレビ朝日により設立され、1年後の2016年4月11日に本開局が行われた「AbemaTV」は、パソコン、スマートフォンをはじめとした各デバイスから視聴できる『無料で楽しめるインターネットテレビ局』として展開する、新たな動画配信事業として急成長を遂げています。
「3年前の開局のタイミングからずっと目指してきたのは、AbemaTVを“マスメディア”へ進化させることです。その指標の一つが『1,000万WAU(週間アクティブユーザー)』の突破でした」
2019年の6月に1,000万WAUを突破し、それ以降も「特番や緊急会見などにより、1,000万WAUを十分に突破できるようになってきました」と語ります。
「これまで、24時間365日ニュース番組を放送している『AbemaNewsチャンネル』をはじめ、オリジナルドラマやバラエティ番組、スポーツ中継など、多様な番組コンテンツを提供することで、新規の視聴者の獲得や視聴の習慣化の促進を意識してきました。もともとご支持いただいていた若年層に加え、M1/F1層(20〜34歳の男女)やM2/F2層(35~49歳の男女)以上にもユーザーの裾野が広がるなど、手ごたえを感じています」
AbemaTVがLINE広告ネットワークに参画した狙い
AbemaTVがパートナーパブリッシャーとして参画を決定したLINE広告ネットワークとは、LINEのタイムライン、LINE NEWS、LINE BLOG、LINEマンガ、LINEポイント、LINEショッピング、トークリスト上で広告配信を行う「LINE広告」を中心としたアドネットワークサービスです。LAPの広告配信で得られたターゲティングデータを活用しながら、LINEだけでなくAbemaTVのような「パートナーパブリッシャーのアプリメディア」を含めた4,600超の外部アプリメディアへの広告配信が可能となります。
「当社のマネタイズはAbemaプレミアム(月額960円)によるサブスクリプションと、CM枠とタイアップ番組の制作からなる広告収益、その他周辺ビジネスの収益で構成されています。特にCM枠の広告については、LINE広告ネットワークの中でLINEと当社が持つ広告在庫をうまく連携させることで、広告主さまにメリットをお返ししたいと考えています」
さらに今後、ユーザー属性やアプリでの行動履歴に基づきパーソナライズされた情報を配信するような広告メニューの共同開発も検討しています。
「私が常々課題として考えているのは、デジタル系のメディアが“健全に稼げない”状態になっていることです。テレビ・新聞といった一般的なマスメディアはメディア・広告会社・広告主の3者で収益を生んでいますが、それに対してデジタル系のメディア――例えば、アドテクノロジーの構造では、SSP(Supply-Side Platform)やDSP(Demand-Side Platform)なども必要となり、その分収益の配分は小さくなります。収益配分が小さくなれば積極的な投資も難しいため、コンテンツにも悪影響が出て、結果としてメディア自体が衰退することもあるでしょう。LINEと話をしたとき、同じような課題感を持っていたことも、今回タッグを組む動機となりました」
LINEとのパートナーシップにより「内部ユーザーの回遊性を高めたい」
さらに、LINE広告ネットワークでは2019年秋以降、パートナーパブリッシャーの事業成長と収益拡大を支援するプログラムとして「Publisher Growth Program」を開始します。同プログラムではLINE公式アカウントの無償化などマーケティング面でのサポートを提供するほか、LINEポイントを活用したアプリのダウンロード数増加やユーザー獲得、リテンション向上などを支援していきます。
山田氏はLINEとのパートナーシップの狙いについて、次のように話します。
「例えば、AbemaTVの番組で女子中高生の人気を集めているのが、『オオカミくんには騙されない♥』などの恋愛リアリティーショーです。女子中高生の3人に1人がAbemaTVの恋愛リアリティーショーを楽しんでいただけていますが、ほかにも、女子中高生をターゲットとした番組を制作しており、若い方も含め、もっと多くの方にAbemaTVの番組を楽しんでもらいたいと考えています。視聴番組に関連したほかの番組をアプリ内でレコメンドするような仕組みを強化すれば、内部ユーザーの回遊性は高まり、ユーザー一人あたりの視聴時間や視聴コンテンツ数がもっと増えると考えています」
LINEとAbemaTVのパートナーシップの枠組みでは、AbemaTVの番組表をLINE公式アカウントと連携できるような機能を共同開発する計画もあります。現在、AbemaTVのLINE公式アカウントでも、ジャンルごとのおすすめ番組や視聴ランキングの配信などを行っていますが、ユーザーに対して一方的な番組告知ではなく、ユーザー一人ひとりの特性を把握して興味・関心を引き出し、One to Oneのコミュニケーションをより意識していきたいと思います。
「AbemaTVが開局から一つのメディア規模の目安として目指していた指標の一つである1,000万WAUを突破しましたが、それだけで満足するつもりはありません。AbemaTVを、日本を代表するマスメディアへと進化させるため、マネタイズで成功した収益をコンテンツに投資し、コンテンツから新規ユーザーを獲得することでまた新たな収益を生んでいく。そんな良いスパイラルをつくっていきたいです」
(公開:2019年9月/取材・文:安田博勇、写真:慎芝賢)
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