多角的な事業を展開する株式会社ディー・エヌ・エー(以下、DeNA)の主力事業の一つに、人気コンテンツを多数抱えるスマートフォン向けのゲームアプリ事業がある。同社では、ゲームアプリの新規ユーザー・休眠ユーザーへのアプローチ手法として、サービスのリリース当初から「LINE広告」を活用してきた。「デジタルマーケティングにおいて外せない存在」と評するLINE広告の活用について、同社の担当者に話を聞いた。
メディア特性を理解した上でのプランニング
ーー担当する業務領域について教えてください。
坊:ゲーム事業のデジタルマーケティングを担当しているのが私の部門で、マネージャーを務めています。対象のサービスはゲームアプリが中心ではありますが、LIVE配信サービスなどさまざまなサービスのデジタル広告出稿も行っています。デジタル広告以外にも、YouTuberやインフルエンサーを起用したインフルエンサーマーケティングのほか、アプリストアの最適化などの施策を展開しています。
西山:LINE担当として、ゲームタイトルを横断的に見ながら広告の運用に携わっています。LINE経由での広告効果最大化を目的に、LINE社や広告代理店と密にコミュニケーションを取り、運用型広告だけでなく、LINEというプラットフォームを活用した新しい施策を日々検討しています。
ーーLINE広告以外にもデジタル広告を運用されていると思うのですが、広告別に担当者を分けているのはなぜでしょうか。
坊:メディアにはそれぞれ特性があり、戦略を立てるためにはその特性を理解する必要があります。ただし、複数のメディア特性を一人で理解するのは難しいため、専門性を高める目的で広告別に担当者を分けています。たとえば、LINEは8,400万人(2020年3月末時点)と、他メディアと比較して圧倒的な月間アクティブユーザー数(MAU)を抱えています。TwitterやFacebookなどのソーシャルメディアにもそれぞれ異なる特徴があるため、利用者の行動態度にも大きな違いが生まれます。
さまざまなターゲットへアプローチできるLINE広告
ーーでは具体的なマーケティング施策について伺っていきます。ベースとなる戦略はどのように立てているのでしょうか。
坊:デジタル広告全般として、LTV(Life Time Value:生涯価値)を考慮しながら、ターゲットユーザーを適切なROI(Return On Investment:投資対効果)に見合った形で獲得していくことを主軸に考えています。施策の中には定量化が難しいものも数多くありますが、可能な限り数値に落とし、PDCAをしっかり回していくのが基本的なスタイルです。具体的には、どのプロダクトでも目標とするMAUを定めているため、そのユーザー数から目標値を分解し、「既存ユーザーがこれだけいるので、新規ユーザーを何人獲得し、離脱ユーザーをこれだけ呼び戻す」という仮説を立てることができます。
そこから、それぞれのターゲットにアプローチするために、どのメディアを活用し、どのような方法で効率化していくかを検討していきます。もちろん、ゲームタイトルのフェーズによって、戦略も変化します。
ーーその戦略の中でLINE広告を活用しようと考えたきっかけを教えてください。
坊:ゲームアプリ業界はご存じの通り、国内外からの参入が激しく、日々新しいゲームがリリースされています。また、スマートフォンコンテンツの利用目的も多様化し、ユーザーは特徴が異なる複数のメディアを使い分けるようになってきました。そのため、以前からより深くユーザー行動を理解しながら、効果的にアプローチしていく必要があるという課題意識を持っていました。
そんな中で運用を開始したのが、2016年にリリースされたLINE広告(当時はLINE Ads Platform)です。当時、我々のチームでもLINE@(現LINE公式アカウント)を活用しており、LINEのユーザー層の幅広さは実感していました。また、当時実施していた純広告経由のユーザーのLTVも高い実績値だったため、「LINEの運用型広告がリリースされる」と聞いてすぐに手を挙げました。
LINEユーザーの属性データ。性別・職業・年齢を問わずあらゆる属性のユーザーが幅広く存在する
タイトルを問わず、LINE広告のLTVがトップクラスの理由
ーーLINE広告の成果指標や運用方法について教えてください。
西山:良質な新規ユーザーの獲得、離脱ユーザーの復帰を目的としています。LINEは他メディアと比べてもMAUが多いことから、弊社のゲームアプリの離脱ユーザーの数も比例して多く、結果として復帰者数が多い傾向にあります。離脱者に向けた配信では、広告を表示時にターゲットユーザーがそのメディアをほとんど閲覧していないケースもあります。その点でも、LINEはアクティブ率が高いため、ターゲットユーザーに届く確率が高いというメリットを感じています。
ーー他のSNS広告との使い分けについてはいかがでしょうか。
西山:メディアによって、広告閲覧時のユーザー行動、年齢層や興味関心が異なるため、どの程度ゲームをプレイしているか、どれくらいのLTVかなど細かな分析を行った上で出稿量を決めています。中でも、LINE広告は圧倒的なユーザー数に加え、類似配信の精度がかなり高いという実感を持っているので、件数を重視したい時、LTVを重視したい時、どちらのケースでも出稿する主要メニューになっています。
出稿量はタイトルによって変動します。具体的にはLINE広告のCPM(Cost Per Mille:1,000インプレッション当たりの広告単価)が少し高いため、LTVと照らし合わせて許容できる範囲か検討しながら、タイトルによって出稿量を調整しています。
坊:タイトルを問わず、基本的にLINE広告経由のユーザーは他メディアと比べてLTVが高いと思います。LTVは継続率や課金率、ARPPU(Average Revenue Per Paid User:課金者一人当たりの平均利用金額)などの指標で見ていますが、LINE広告はどの指標においても良い数字を残しています。やはり、幅広い年代や属性を持つユーザーに、効果的なアプローチができていると実感しています。
西山:LINE広告のLTVは全タイトルで基本的にトップクラスです。より踏み込んでいえば、LINE広告はかなり高めの許容金額が設定できているメディアです。
ーーなぜLINE広告経由のユーザーのLTVが高いのか。その理由や分析についてはいかがでしょうか。
西山:そもそもLINE自体、日本人のほとんどが使用しているアプリで、他のSNSではリーチできない層にもアプローチできるメリットがあります。たとえば、TwitterやTikTokなどは若年層を数多く抱えていますが、LINEはユーザー数も多く年齢層が広いため、高いLTVのユーザーを狙うことができます。また、類似配信の精度の高さも要因の一つと考えています。ターゲットの類似ユーザーに、精度高く広告が配信できる。これも大きいです。
SNS利用者中の各サービス併用率。LINEしか使わないユーザーが40.6%も存在する
※調査機関:マクロミル・インターネット調査(2020年1月実施/全国15~69歳のスマートフォンユーザーを対象/サンプル数20,000)
細やかなPDCAを回し類似配信をチューニング
ーー類似配信については、具体的にどのような運用を行っていますか。
西山:インストール、アクセス数、課金経験などさまざまなシード(類似配信に活用する基となるデータ)を使っています。たとえば、高頻度アクセスユーザーのシードで類似度を5%に拡大して配信した時、インストールしたユーザーがゲーム上でどのような行動を取っているのかをチェックします。次に7%まで拡大した際、5%の時とどんな差分が発生するのか確認しながらPDCAを回しています。これを繰り返すことで、類似度と成果の関係性が見えてきます。同じような運用を各タイトルで行っています。一方で、LINE広告には自動最適化機能があるため、その学習効果を高める目的で、最も効果が高いグループに配信を集中させて学習データを蓄積する戦略も取っています。
ーー他メディアでも同じシードを使うことはありますか?成果面での違いについても教えてください。
西山:同じシードで試すことはあります。成果面で断言するのは難しいですが、LINE広告は類似配信でも十分な配信ボリュームを確保できると感じています。他メディアに比べてリーチできる範囲が広く、ターゲットユーザーの“枯れ”が起きにくいのだと考えています。
認知から定着まで一貫した施策をLINE上で
ーークリエイティブに関してはどのように運用しているのでしょうか。
西山:まず各メディア共通でクリエイティブを作成し、メディアごとに振り返りを行い、最適化していきます。LINE広告の場合、配信面を選ぶことはできないため、どの配信面に広告が配信されたかはクリエイティブの在庫や反応を見て分析しています。
ーー最後に、今後の展望についてお聞かせください。
西山:LINE公式アカウントやLINEプロモーションスタンプのほか、LINEサービスのデータをLINE広告の配信に活用できる「クロスプラットフォーム」に期待しています。また、LINE広告と他サービスを併用すれば、認知から獲得・定着まで、LINEを使った一気通貫の施策が可能です。現状はLINE広告の活用が中心ですが、獲得効率を向上させるためにも、今後は積極的にチャレンジしたいと考えています。
LINEのクロスプラットフォームの概略図。各LINEサービス上のデータを連携することでフルファネル施策が実現する
坊:LINEのプラットフォームは現在進行系で進化を続けていますし、今後、さらにインフラ化が進むと思っているので、私たちのサービスやプロダクトもその進化に対応しながら、新しいエンタメカルチャーをつくっていくつもりです。
(公開:2020年6月)
※本記事内の数値や画像、役職などの情報はすべて取材時点のものです