平成元年(1989年)の創業から30年以上にわたり、大阪で美容室を展開する株式会社MASHU(マッシュ)。4年前からLINE公式アカウントを利用していましたが、2022年2月よりLINEミニアプリを導入した結果、自社のLINE公式アカウントの友だちが5000人増、LINE経由の予約が5倍に伸長、商品購買単価が7.6%増、再来店率は91.9%と、目覚ましい成果を上げています。MASHUの企画広報部部長、オフィス室長を務める中島 盾(じゅん)さんに、LINEミニアプリの効果的な活用法や美容室ならではのDXについて聞きました。
目次
①美容室としてお客さまとつながる
大阪で9店舗を展開するMASHUには、年間2万人以上が来店する。10年ちかく美容師としてサロンワークを行い、今は本部業務をになう中島さんが強く実感しているのは、SNSの普及にともなう「お店の選び方の変化」だ。
「MASHUでは、新規に来店されたお客さまの53%がSNS経由です。業界全体の動向としても、美容室を選ぶというよりスタイリストを選んでお店に行くというように、選び方が変わってきています」(中島さん)。
そこで、改めて美容室としてお客さまとつながり、コミュニケーションを取っていきたいと考え、まずは自社アプリを導入した。
しかし、「せっかくダウンロードしていただいても、その後にスマホのホーム画面からアプリ自体が消されることもあります。コンテンツを作ってもどのくらい読まれているのか、お客さまにメッセージが届いているのかも分からず、マーケティング施策の効果測定もできない状況でした」といい、十分な成果を得られなかった。
そこで、お客さまにとって身近な存在であるLINEを活用して、これらの課題を解決していくことを決めたという。
②LINEミニアプリ活用で自力集客が5倍に
MASHUは、2018年8月からLINE公式アカウントの利用を開始。2022年2月よりLINEミニアプリを導入した。
SNSや予約ポータルサイトで認知を広め、来店にはLINEミニアプリ、商品購買にはLINE公式アカウント、再来店にはLINEミニアプリとLINE公式アカウントを活用している。
メディア・SNSを中心に認知を広め、来店後は顧客単価・購買単価の向上、再来店を狙うというのがMASHUのマーケティング戦略(LINE LOCAL DAY 2022のMASHU登壇資料より)
お客さまとの関係をサロンワークやLINEの法人向けサービスを通じて深め、次回予約をLINEミニアプリ経由とする流れを構築。
LINEミニアプリの導入からわずか4カ月で、手数料のかかる予約ポータルサイト経由の予約が前年11月との比較で38%も減少し、自社のWebサイトとLINEミニアプリによるオーガニックの自力集客が5倍になったという。
LINEミニアプリは名称に「アプリ」とあるが、スマートフォンにLINEさえ入っていれば特に別のアプリをお客さまにダウンロードしてもらう必要はない。QRコードを読み取るか、またはLINE内で検索するだけで、手間なく数タップで利用を開始できる。
また、LINEミニアプリの起動時に対象のLINE公式アカウントをスムーズに友だち追加できるため、LINE公式アカウントとの併用で相乗効果を得やすい。
MASHUが利用しているPOSシステム「SalonAnswer(サロンアンサー)」のLINEミニアプリは、エクシードシステム株式会社が開発・提供している。簡単に導入できるパッケージがおすすめで、初期費用3万円、月額6800円で利用を開始できる。
そのほか、各開発会社が提供するLINEミニアプリのパッケージは、LINE社のポータルサイト「LINE for Business」のサービスページから確認できる。
(図はLINE LOCAL DAY 2022のMASHU登壇資料より)
③ブロックされない! パーソナライズなメッセージ配信
これだけの成果をあげるには、こまめなメッセージ配信を行っているのかと思いきや、一斉配信は月に一度あるかないかだという。
「LINE公式アカウントの運用にあたり、友だち追加数、メッセージの配信数、開封率、そこからの予約や商品の購入を指標として注視していますが、何より一番重視しているのはターゲットリーチ(ブロックしていないユーザー数)です。せっかく友だち追加してもらってもブロックされたら何もアプローチができなくなりますし、お客さまにとって必要ないメッセージはノイズでしかありません。だからメッセージの一斉配信はなるべく行わず、パーソナライズした配信を徹底しています」
メッセージ配信の方針について語る中島さん
MASHUのLINE公式アカウントは全店舗共通の1アカウントだが、POSシステムの条件検索からメッセージのセグメント配信を行っている。
ユーザーの予約状況に応じて、予約2日前に送るリマインドメッセージと来店翌日に送るお礼メッセージのほか、配信内容は「ヘアケア・Tips」「商品・サービスの紹介」「アンケート・挨拶」の3つに大きく分けられる。
伝えたいことをプッシュ通知で一方的かつ一斉に送りつけるのではなく、日頃、店舗で交わしているコミュニケーションをデジタルに変換するという考え方で運用している。
「『MASHUの言うことだったら聞こうか』と思っていただける関係性を築いておくことが大切。店舗が信頼を作る場所であることはDXが進んでも変わりません。人同士のコミュニケーションであることを忘れたDXではうまくいかないと考えています」。
直近では、新商品キャンペーンの開封率が41.5%、ヘアケアについてのメッセージが66.1%と高い開封率を記録。アンケートの開封率は80.6%とさらに高く、店内オペレーションの確認やお客さまからの意見を社内教育や営業活動に活かしているという(直近6カ月の平均値、MASHU調べ)。
20人だけに送った「お祭りの交通規制のお知らせ」
MASHUのパーソナライズしたメッセージ配信の一例が、地元のお祭りの前日に送ったお知らせだ。
「交通規制がかかると、いつもの時間に家を出ていては予約時間に遅れてしまいますよね。該当するお客さま20人ほどだけに『お祭りがあるので、お車でご来店の方は事前に交通情報をご確認ください』と送りました。実はこれ、アシスタントからの提案なんです。こういった意見が現場から自発的に出てくるのはうれしかったですね。すごく褒めました」。
毎日、様々な企業から届く大量のDMやメールにうんざりしている人も少なくない。だからこそ、親切心からの連絡だとお客さまが感じる体験が一度あるだけで印象がガラリと変わる。
お祭りの交通規制の連絡がまさにこの好例で、「おかげで間に合った。ありがとう」とお客さまに感謝されたという。「美容室とお客さまの関係では特に、店舗での人に寄り添うコミュニケーションをデジタルでも行うことが大事だと思っています」。
王様や女王様に情報を“捧げる”気持ちで
お客さまが求めていない情報はノイズにしかならないため、徹底的に対象を絞ってメッセージを配信するのが、MASHU流のLINE公式アカウントの運用術だ。
「何も工夫をしなければ、メッセージは見てもらえないものなんだという認識で運用しています。これは僕の個人的な感覚ですが、王様や女王様に聞いていただくように、情報を“捧げる”気持ちで配信しています」。
情報の受け手の気持ちに立ったアカウント運用により、MASHUのLINE公式アカウントのブロック率は驚異的に低い。友だちの数が増え続けているにもかかわらず、14~16%台にとどまっている(直近半年間の平均値、MASHU調べ)。
④LINEの友だちは5000人増で約2万人
LINEの法人向けサービスの運用において、着々と結果を出しているMASHU。
LINEミニアプリの導入以降、LINE公式アカウントの友だち追加のペースが上がり、POSデータとユーザーのLINEのユーザーIDがひもづいた顧客数もわずか4カ月で1万人を超えた(ユーザーの許諾を得た情報のみ、ひもづけ可能)。
同時に、LINE公式アカウントの友だちも5000人以上増えて約2万人となっている(数値はいずれもMASHU調べ)。その影には、10年以上前から採用しているというビューティ・コーディネーターの活躍があった。
成果について補足する中島さん
「ビューティ・コーディネーターは専任で12名いるのですが、LINEミニアプリでポイントが貯まることや予約の日時確認ができること、クーポンやお役立ち情報がLINEで届くことなど、お客さまのベネフィットを具体的に伝えてくれています。LINEミニアプリの操作方法に難しさを感じるお客さまには一緒に操作するなどして、きめ細かく対応しています」
その結果、美容室を訪れる6割以上のお客さまがLINEミニアプリを利用しており、2022年内に8割の利用率を目指しているという。
「MASHUでは新規客へのファーストカウンセリングはビューティ・コーディネーターが行い、髪の悩みにとどまらず、お客さまの理想像や目的もお聞きします。信頼関係を作りながら、時には人生の目標を聞くなど踏みこんでいくこともあります。お客さまの満足度を高めてくれる心強い存在です」と、中島さんは厚い信頼を寄せている。
コミュニケーションのプロであるビューティ・コーディネーターは、顧客とのコミュニケーションを深めるLINEミニアプリのナビゲーターとして、まさにうってつけの存在だ。
⑤商品購買単価は7.6%増
実はMASHUでは、20年以上前からオリジナルシャンプーを製造、販売している。
2022年5月にリニューアルした独自のヘアケアシステム「oooit(オーイット)」は、美容室でのトリートメント施術と自宅でのホームケアの両面で美髪をサポートするというもので、oooitによって〝美髪のサロン″として認知が広まり、新規客の来店動機にもなっているほどだ。
このoooitを始め、メーカーのサロン専売品などを店販品として扱っているが、2022年3~5月度の購買単価は前年同期に比べて7.6%もアップしたという。
きめ細かいカウンセリングを通じてお客さまと目標を共有するなどの努力の積み重ねによるものだが、LINE公式アカウントのリッチメニューからの導線強化も大きい。
トーク画面下部のリッチメニューからオンラインショップへ簡単にアクセスできる。
乾燥、うねり、ごわつきなどの悩みを選択するだけでおすすめ商品がわかる診断コンテンツをLINE公式アカウント上で提供している。
(上下の図ともにLINE LOCAL DAY 2022のMASHU登壇資料より)
リッチメニュー内で、自社の「オンラインショップ」への導線を設けたり、髪の悩みから適したアイテムが選べる「診断コンテンツ」を提供したりと工夫が光る。
「診断コンテンツは、これまで話しにくかったお悩みを解決するきっかけになっているようです。お客さまが診断を面白がって試してくださっているので、手応えを感じています」。
自社ポイントでお得感アップ
また、LINEミニアプリ上で管理できる自社独自のポイントプログラムが、店販商品の購買意欲を高めている。
「美容室での施術でたまったポイントを商品購入に使っていただけるのでお得感があります。以前は、外部の共通ポイントを利用していたのですが、コンビニやドラッグストアなど、別の場所で利用されてしまうこともありましたし、手数料もコストになっていました。今は、発行したポイントをすべてMASHUで使っていただけるのでお勧めしやすくなりました」
(LINE LOCAL DAY 2022のMASHU登壇資料より)
LINEミニアプリのポイントプログラムは、POSシステムと連携しているため、会計をするだけで自動的にポイントが貯まる。
紙のポイントカードを出したり、スマホでバーコードを読み込んだりする必要がないため、美容室もお客さまも余分な手間がかからない。
⑥電子カルテでサロンワークをDX
LINEミニアプリには電子カルテ機能もあり、施術内容を手描きのように記録したり、写真で保存したりできる。MASHUでは紙での管理から移行し、DXを実現した。
「紙のカルテを保管し、お客さまの来店時に探して出す作業には一定の時間がかかります。また、複数店舗を利用しているお客さまについては店舗間でFAXを送っていました。電子カルテはそういった手間が一切なく共有できます。MASHUでは待遇改善のためにも、人時生産性(従業員1人が1時間働く際の生産性)を重視してきました。DXを進めることでスタッフの負担が軽減し、本来の業務に注力できます」
⑦キャシュレス決済で働き方改革を促進
さらに、MASHUの新ブランド「suntieMn(サンティエムン)」では、LINEミニアプリを活用することで、現金なしの完全キャシュレス決済を実現している。
「お釣りの準備が不要になり、開店準備のタスクを減らせました。始業30分前の出勤にできるので、働き方改革の一環として今後も進めていきたいですね。最初は戸惑うお客さまもいらっしゃいますが、丁寧に説明すると利便性を感じていただけています」
LINEが深めるお客さまとのつながり
こうした様々な努力が実を結び、MASHUの再来店率は驚異の91.9%となった。一生涯安心して通い続けられる美容室を目指した「~ Life with MASHU~ MASHUと共に人生を」というフィロソフィーを体現するかのような数字だ。
美容師がお客さまと会えるのは数カ月に一度。しかし、会えない期間もLINEを介してコミュニケーションをとることができる。社会全体でDXが進むなか、日常生活に浸透しているLINEを利用したLINEミニアプリやLINE公式アカウントは、美容室とお客さまとの関係性をより深めるスタンダードなツールとなっていきそうだ。