三井住友カード株式会社(以下、SMCC)はユーザーとのオンラインコミュニケーションを強化するため、2019年4月にLINE公式アカウントを開設し、LINE上で提供する各種サービスを充実させてきました。2021年5月には、カード会員向けサービス「Vpass」と連携し、金融業界として初めてLINEミニアプリの運用をスタート。LINEミニアプリの開発・導入に携わった同社のメンバーと、それをサポートするLINEの兼清俊太郎(以下、兼清)に取り組みの内容や成果、今後の展望について話を聞きました。
- 毎回ログインが必要なWebサービスと、リッチな機能と快適な操作性を追求したネイティブアプリの間に位置する、都度ログインや新たなアプリダウンロードを不要としたライトユーザー向けのアプリケーションを開発し、ユーザーとのコミュニケーションを強化したい
- 2019年4月にLINE公式アカウントを開設し、VpassIDとLINEアカウントを連携している友だちに対し、キャンペーンや新サービスに関するメッセージをLINE公式アカウントから配信
- 2021年5月に金融業界として初めてLINEミニアプリの運用を開始し、LINE上で各種照会、お手続き可能なサービスを提供
- LINEミニアプリをリリースした初動1週間は、前週比でID連携数が約8倍に。その後は約5倍で推移
- ユーザーが契約するカードの種類や利用状況を基にメッセージを送り分け、開封率は70%、クリック率は13%に達した
LINEミニアプリで簡単にカード利用の照会や変更手続きが可能に
SMCCは会員事業、加盟店事業、受託事業を中心に事業を展開する大手クレジットカード会社です。中でも、個人のユーザーにサービスを提供する会員事業において、ユーザーとのオンラインコミュニケーション強化を図り、2019年4月からLINE公式アカウントの運用を開始しました。アカウント開設の経緯について、同社IT戦略部の小島翔氏(以下、小島氏)は次のように語ります。
「従来、弊社はカード会員への情報発信にメールやSNSを利用していましたが、メールは開封率の低さが課題でした。より多くの会員に情報を届けるために、顧客接点の拡大と継続的なコミュニケーションが必要と考え、多くのユーザーが日常的に親しんでいる『LINE』が最適なツールだと判断しました」(小島氏)
その後、SMCCはモバイル送金・決済サービス「LINE Pay」とも業務提携を推進する中で、Visa LINE Payクレジットカードの発行や当該カードの利用通知をLINEで受け取れる機能、LINE上で発行可能なVisa LINE Payプリペイドカードなど、LINEをプラットフォームにしたさまざまなサービスを提供してきました。
SMCCは同社のカード会員向けにサービス「Vpass」も運営しています。Web上から利用明細・利用可能額の確認、カードの登録情報変更などの手続きが可能なVpassは1996年にリリースされて以降、多くのユーザーに利用されてきました。しかし、「多様化するユーザーニーズに対応しきれていない課題があった」と、同社IT戦略部の平塚博章氏(以下、平塚氏)は話します。
「Web版のVpassは利用のたびにログインが必要なため、必ずしもユーザーに親切な設計とは言い切れません。2014年からは、お得・安心・便利機能を搭載したネイティブアプリも提供しています。一方で、ダウンロードが必要なアプリをこれ以上増やしたくないという理由で利用に至らないケースもあります。LINEミニアプリは、そうした課題の解決につながるのではないかと考えました」(平塚氏)
2021年5月にSMCCが金融業界として初めて導入したLINEミニアプリは、企業のサービスをLINE上でユーザーに提供できるWebアプリケーションプラットフォームで、小売や外食といった店舗系ビジネスから飲料メーカーなどの大手企業に至るまで、幅広い利用実績があります。VpassのLINEミニアプリ利用にあたっては、LINEのアカウントとVpassIDの連携が必須となっており、ID連携後に支払い金額、利用明細、ポイント残高の確認のほか、各種変更手続きが可能になります。
「LINEミニアプリは使い慣れたLINEからすぐに利用可能で、毎回のログインも不要です。利用ハードルが高いWeb版の弱点を補完しつつ、ネイティブアプリのようなわかりやすい操作性も実現できるので、ユーザーメリットが非常に大きいと考えています」(平塚氏)
また、VpassのLINEミニアプリは、わずか4カ月という短期間で開発されました。その中で、「セキュアかつスムーズなID連携を実現するのには苦労した」と、同社システム開発部の井下聡一氏(以下、井下氏)は振り返ります。
「以前からSMCCのLINE公式アカウントでは、カードの利用金額やポイント残高を表示するサービスをユーザーに提供していました。これにはLINEのアカウントとVpassID と連携いただく必要があるのですが、すでにID連携済の会員さまがVpassのLINEミニアプリを利用する際、再びログインの手間を取らせることなく、安全かつシームレスにLINEミニアプリへ移行してもらえるよう、何度も議論や検証を重ねて万全なものにしました。
また、LINEミニアプリの構築はHTMLベースとなっているため、特にWeb版のVpassとの相性が良く、プログラムをほとんど追加する必要がありませんでした。このあたりが開発期間を短縮できた要因だと思います」(井下氏)
VpassIDとID連携して、よりパーソナライズされたメッセージを配信
LINEミニアプリの特長は、大きく3つあります。1つ目は、アプリケーションのダウンロードが不要で、LINE上で簡単に起動できること。2つ目は、LINEのアカウントと広告主が保有する会員情報などをID連携させることで、利用開始時の認証を簡略化できること。そして3つ目は、LINEミニアプリ上でユーザーが行った購入完了や予約完了など、非広告的なサービスメッセージをLINEミニアプリ専用のLINE公式アカウントから配信できることです。LINEの兼清はこうした特長がもたらすメリットについて、次のように説明します。
「ユーザーは通信容量やストレージの空き容量などを気にすることなく、気軽にLINEミニアプリを利用いただけます。同時に、企業はLINEミニアプリを通じた自社サービスの利用促進が期待できます。
さらに、LINEミニアプリの初回利用時に自社のLINE公式アカウントを友だち追加されるように設定すれば、企業はユーザーとの長期的なコミュニケーションが取れるので、その後のマーケティングを強化することもできます」(兼清)
SMCCはVpassIDとID連携している友だちに、キャンペーンや新サービスに関するメッセージを週1回程度、LINE公式アカウントで配信しています。ユーザーが契約しているカードの種類や利用状況を基にメッセージ内容を最適化することで、開封率は70%、クリック率は13%に達することもあるそうです(SMCC調べ)。
また、同社はLINEミニアプリの運用において「VpassIDとのID連携数」をKPIとして設定しました。その理由について小島氏は次のように話します。
「よりパーソナライズされた情報をLINEで届けられれば配信効果が高まるので、『VpassIDとのID連携数』は非常に重要な指標です。2021年5月にLINEミニアプリをリリースした結果、従前の5倍程度のペースでID連携数が増加しており、今後のLINE公式アカウント活用にもつながると考えています」(小島氏)
VpassのLINEミニアプリはリリース直後から反響が大きく、各種メディアで取り上げられたほか、SNS上でも「三井住友カードのLINEミニアプリが便利」「都度ログイン不要で気軽に見られるようになった」「驚くほど使いやすい」などのユーザーのコメントが多数投稿されているそうです。同社商品企画開発部の山本雄貴氏(以下、山本氏)は、LINEを活用した施策の手応えについて語ります。
「LINEが他のコミュニケーションツールと一線を画す点は、やはり通知を受けたユーザーがすぐにメッセージを開封したり、リンクをクリックしたりするアクション率の高さにあると思います。たとえば、カードの登録情報の内容変更を行うとき、最初はメールでご説明していても『お手続きはWebサイトで』などのように遷移いただく必要があり、一定数の離脱が発生してしまいます。一方、LINEであればそのような心配はなく、LINE上でさまざまな機能を利用いただくことができます。ユーザーと点ではなく、そこから線や面となるコミュニケーションを行えるのがLINEの魅力ではないでしょうか」(山本氏)
新規カード会員獲得を目指して、LINEミニアプリの活用をさらに促進
VpassのLINEミニアプリ運用開始から3カ月が経過し、SMCCは次の展開を見据えています。
「ユーザーのさらなる利便性向上を目指して、LINEミニアプリ上のユーザーがどのようなサービス・機能を求めているのか、活用しているのかなど、分析機能の強化を進めています。また、現状は一部のサービスの申し込み手続き時に再ログインが必要になっているので、それも不要にしたいと考えています。弊社のサービスに関するすべての手続きが、LINEミニアプリを立ち上げから数度のタップで完了できるようにするのが目標です。2021年内の完了も視野に入れて、鋭意さらなる改良を行っています」(平塚氏)
また同社IT戦略部の大埜喬氏(以下、大埜氏)は、「新規カード会員の獲得にもLINEを活用していきたい」と意気込みます。
「VpassのLINEアプリのユーザー数がさらに増えたら、アプリ上での行動履歴に基づいてLINE広告の類似配信を行い、新規申し込みの獲得数を増やしたいと考えています。同時に、ID連携いただいている友だちとのコミュニケーションをLINEのみに絞ることでカードの利用率が高まるか、退会率は減るかなど、LTVの観点でLINEの効果を検証していきたいと思います。また、LINEミニアプリもサービスの質がどんどん上がっていくと思うので、引き続きLINE社とも連携を深めていきたいです」(大埜)
LINEの兼清は、今後のLINEの法人向けサービス活用の展望について次のように述べます。
「ID連携数をより高める施策として、SMCCさまが日々配布されるDMや、カードを送付する際の同梱物にLINEミニアプリのQRコードを掲載すれば、今いる友だちとは異なるグループで、さらにLINEミニアプリの利用が促進されるのではないかと考えています。また、LINEミニアプリ専用のLINE公式アカウントから無料で送れるサービスメッセージには金融業界向けのテンプレートが少ないので、今後、充実させていきたいと思います」(兼清)
最後に金融機関初のLINEミニアプリ導入を終えて、SMCCの平塚氏が本プロジェクトを総括します。
「金融業界で初めてのLINEミニアプリ導入事例だったこともあり、設計段階から開発・実装に至るまでLINEさまにはさまざまな技術サポートや情報提供をしていただきました。これからもユーザーの利便性向上のために、LINEミニアプリのさらなる進化を期待しております」(平塚氏)
(公開:2021年8月/取材・文:相澤良晃)
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