創業175年以上の歴史を誇り、世界120カ国以上で愛されているスイス発のプレミアムチョコレートブランド「Lindt(リンツ)」。同社の日本法人であるリンツ&シュプルングリージャパン株式会社(以下、リンツ)では、ブランディングを重要視した情報をユーザーの特性に合わせて届けることを目的に、LINE公式アカウントを開設。その運用方法や効果について、リンツの片岡正宏氏と運用をサポートする株式会社電通デジタルの星野大吾氏に話を聞きました。
- コンシューマーがより日常的に接するプラットフォームを最大活用し、ブランド認知の向上を図りたい
- LINEユーザーの属性に合わせた最適なブランド情報を届けたい
- 実店舗と同様、デジタル上でもユーザーに寄り添った上質なチョコレート体験を提供したい
- LINE公式アカウントを開設し、店舗ごとに運用していたアカウントをブランドのLINE公式アカウントに統合
- LINE公式アカウントのAPIツールを導入し、ユーザー属性に合わせたメッセージ配信やインタラクティブコンテンツを実装
- 店頭でブランドのLINE公式アカウントを案内し、既存の友だちの約9割以上に当たるユーザーが新アカウントへ移行
- ブランドのLINE公式アカウントは開設後、広告出稿を一切せずに約3カ月で友だち数が約15万人以上増加
- ユーザーの居住地や年代、お気に入り店舗などでメッセージをセグメントして配信することで、的確な情報発信と共に効果的なキャンペーンが実現
株式会社電通デジタル コマースデザイン事業部星野 大吾氏(BOT BOOSTaR®開発者)(写真右)
エンゲージメント重視の一貫したマーケティング戦略
2021年6月現在、日本国内で67店舗の直営店を展開するリンツは、20種類以上の豊富なフレーバーと口どけがなめらかなチョコレートとして人気の「リンドール」、リッチなカカオの味わいが楽しめる大人向けのタブレットチョコレート「エクセレンス」など、数多くの商品ラインナップを展開しています。その他にも焼き菓子やデリース、10種類以上のショコラドリンクなどのカフェメニューも提供しています。
「リンツを好んで選んで頂けるお客さまは、総じてエンゲージメントやコンバージョン率が高く、非常に上質なファンが多いと思います」と語る片岡氏が、同社のマーケティングヘッドに就任したのは2020年の夏。入社時に行ったブランド調査では、リンツよりも市場において認知度が高い競合ブランドは複数あったものの、購入後のブランド及び商品満足度と再購入への転換率は最も高い数値を記録しました。
上記調査で明らかになったように、リンツではマーケティングにおいて、ユーザーのエンゲージメントを重視し、新たなブランド価値を生み出すための戦略を展開してきました。具体的には、(1)ブランド戦略(2)ビジネス戦略とそれに合わせた商品開発(3)店舗及びオンラインを含めたオムニチャネルマーケティング戦略 (4) ショコラアドバイザー(販売員)へのサービストレーニングに分かれ、そのすべての領域を見直して再構築することで、より魅力的なブランドへ加速させようとしています。中でも特徴的なのが、各直営店で接客にあたるショコラアドバイザーのサービスレベル向上も、マーケティングの一環と捉えて組織化を図っている点です。
「ユーザーのエンゲージメントに軸を置きながら、ブランドのリーチを広げていくバランスがとても大事だと思います。リンツらしさを損なうことなくいかに魅力的な商品が作れるか、それをどのように購入してもらうか、さらに、ブランドのファンになっていただくため、接客を通じていかに素晴らしい購入体験が提供できるか――。こうした一つ一つのコンシューマージャーニーを、シームレスに構築することに力を入れています。そして、豊かで上質な購入体験を提案するショコラアドバイザーの存在と店舗こそが、プレミアムチョコレートブランドのリーダとして我々が持っている強みの一つだと考えています」(片岡氏)
店舗ごとに運用していたLINE公式アカウントをブランドのLINE公式アカウントに統合
「リンツらしいコンシューマージャーニー」の実現に向け、片岡氏は着任して早々、それまで店舗ごとに運用していたLINE公式アカウントをブランドのLINE公式アカウントに統合しました。
もともと、LINE公式アカウント導入の背景には、多くのユーザーが日常的に活用するチャネルでブランドの存在感を示すという目的がありました。LINEは約8,800万人(2021年3月末時点)という月間利用者数を誇る、日常の生活に深く根付いているアプリです。
「ユーザーが日常的に活用しているコミュニケーションアプリとして、LINE公式アカウントには大きなポテンシャルを感じていました。LINE公式アカウントの統合についても、例えば1人のユーザーが吉祥寺、渋谷、千葉など複数の店舗アカウントを友だちとして追加していた場合、これまでの運用では重複したメッセージを送ってしまうこともあるし、伝える内容も複雑になります。発信するメッセージ経路を一本化すれば、お客さまにとってもシンプルで分かりやすく、何より関係性も深まると考えました」(片岡氏)
新たにブランドのLINE公式アカウントを開設するに当たり、KPIとして「2020年内に友だち数を20万人にする」という目標を設定。それまで各店舗で運営していたアカウントの友だち数は合計しても約8万人、目標数値はその倍以上になります。そこで、既存の友だちであるユーザーに移行を促す施策を進めながら、並行して新たなユーザー層に対して認知を高める戦略を取りました。
既存ユーザーへの案内では、最大の強みとする店舗やショコラアドバイザーの存在、そして商品であるチョコレートの魅力が重要な役割を果たしました。店舗向けに接客マニュアルを整備し、来店したユーザーにはブランドのLINE公式アカウントへの移行を案内。さらに「新アカウントの友だち追加で、人気のリンドールチョコレートを1つプレゼント」というキャンペーンを展開しました。結果、既存の友だちの9割以上に当たる約7万7,000人が移行しました。
友だち数は新たに15万人以上増加し、設定していたKPIも達成
ショコラアドバイザーによる店頭での案内は、新規の友だち獲得にも貢献しました。その要因について、片岡氏は「店舗で抱くワクワク感や居心地の良さ、ブランド体験を楽しむことができる環境にある」と分析します。
リンツの場合、他の菓子メーカーなどが出店するデパートの地下1階などを避け、ラグジュアリーなファッションブランドが集まる百貨店1階や路面店に店舗を構えるというブランド戦略を取っています。
「ブランドの世界観、良質な購入体験を演出するための出店戦略です。来店したお客さまが感じるリッチなショコラ体験の先にアドバイザーの案内があるため、ブランドに共感してくれた方々がスムーズに友だち登録をしてくれたと考えています」(片岡氏)
また、ヨーロッパ発のブランドという強みを生かし、2020年には東京クリスマスマーケットにも初出店。多くの来場者にLINE公式アカウントを案内したほか、新年に提供している福袋も友だち限定での抽選販売としました。
「コロナ対策のため、福袋は基本的にオンラインで販売しました。それでも、実際に店頭で選びたいというお客さまの要望に応えるため、店頭販売数と来店者数を限定することにし、その抽選をLINE公式アカウントで実施しました」(片岡氏)
複数の施策で、ブランドのLINE公式アカウントの友だち数は15万人以上も増加。「2020年中に友だち数20万人」と設定していたKPIも達成し、現在は26万人(2021年5月時点)まで増加しています。
APIツール導入でより顧客に寄り添った情報発信・体験価値の提供が可能に
現在、リンツでは友だちに対するメッセージ配信の設計に力を入れています。主にAPIツールを活用したコミュニケーション設計をサポートする星野氏は、個人を特定しない形で居住地・年代などをセグメントしてユーザーに最適な情報を届けることで、より的確かつ効果的なキャンペーンが実現すると語ります。
「例えば、クリスマスマーケットへの出店告知には、開催場所を考慮し居住地でセグメントした上でメッセージ配信をしましたし、特定店舗に紐づく情報発信の際には、LINE内でユーザーがお気に入り登録した店舗データを基に配信を行いました。また、ID連携でリンツのECサイトの購買情報とLINEアカウントを紐付け、会員ステータスに基づく配信や優良顧客のユーザーIDをシードオーディエンスとした類似拡張で広告を配信するクロスターゲティングなどの活用も考えています」(星野氏)
複数のAPI活用でユーザーへ最適化された情報発信に取り組む一方、BOT BOOSTaR®(※)を導入し、一方通行なコミュニケーションだけではなく、トーク内のリッチメニューで日替わりチョコレートの紹介や店舗検索、カフェメニューの閲覧機能など、ユーザーの利便性を考慮したインタラクティブなコンテンツ実装にもこだわっていると星野氏。
※「BOT BOOSTaR®」とは、LINE社が認定する「Technology Partner」である電通デジタルが提供している、LINE公式アカウントで多様なコミュニケーションが可能になる新規顧客獲得・既存顧客育成支援サービス。「Technology Partner」の中で、ユーザーと企業との関係性を高めるようなサービスを提供することに優れている「Engagement」バッジを獲得している。
その上で、片岡氏は「何より大切にしたいのは、お客さまに寄り添ったショコラ体験の提案」だと強調します。
「家族や友だち、恋人のLINEアカウントをブロックすることはありません。リンツも同様にお客様に寄り添う家族のようなアカウントとして、生活を少しでも豊かにする楽しいショコラの感動体験を提案するため、LINE公式アカウントの有効活用を目指していくつもりです」
(公開:2021年6月、取材・文:岩崎史絵、写真:小川孝行)
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