グローバルワーク、ニコアンド、ローリーズファームなどの人気ファッションブランドを展開する株式会社アダストリア(以下、アダストリア)では、自社の公式ウェブストア「[.st](ドットエスティ)」に加え、5つのブランドに専用のLINE公式アカウントを開設しています。
ブランド別に複数アカウントを運用する際のポイントや最新の取り組みについて、同社マーケティング本部とローリーズファーム営業部の担当者に話を伺いました。
- ブランドとユーザーとの接点を強化したい
- ブランドごとに属性の異なるユーザーに対して適切なコミュニケーションをとりたい
- 複数のアカウント運用から得られる知見を用いてアカウントの運用を最適化したい
- 5ブランドでLINE公式アカウントを開設し、ブランドのファンへメッセージを通じたコミュニケーションを実施
- 公式ウェブストアのLINE公式アカウントも開設し、LINEからバーコード会員証を掲出可能に
- 自社主催のイベントの応募から入場までの手続きを、ローリーズファームのLINE公式アカウントで完結できる形で実施
- 複数アカウント運用の知見を集約して横展開することでWebサイトや実店舗への誘導効果が向上
- 初の試みとなったオフライン施策(イベント開催)とオンライン施策(LINE)との連動により、ユーザーとより深いコミュニケーションが可能に
- イベントへの応募方法の簡単さから、現場スタッフの負担減と応募率が大幅増
LINE公式アカウントは“行動を起こさせる”顧客接点
カジュアル衣料品や雑貨のブランドを数多く展開するアダストリアが、LINE公式アカウントを初めて導入したのは2013年9月のこと。メンズ・ウィメンズ・キッズを展開する「グローバルワーク」、レディースブランドの「レプシィム」、「ローリーズファーム」のブランド別LINE公式アカウントを開設しました。アダストリアのマーケティング本部でブランドを横断したマーケティング戦略を担う川村恵生氏(以下、川村氏)は、当時の目的を次のように振り返ります。
「当時はごくシンプルに顧客接点強化を最大の目的としていて、メッセージやクーポン、LINEスタンプの配信など、LINEを“マス広告的”に使うことに比重を置いていました。しかし、運用を始めると、アクセスが集中してサーバーに負荷がかかるほどの反応と、実店舗への集客にも高い効果が表れました。結果、他のSNS以上に“行動を起こさせる”ことができる重要な顧客接点として、LINE公式アカウントを捉えていくようになりました」(川村氏)
その後、同社は2015年3月に30〜40代女性をターゲットとする「スタディオクリップ」、25〜35歳男女をターゲットとする「ニコアンド」と、さらに2つのブランドのLINE公式アカウントを開設しました。
「それぞれのブランドによって中心となるお客様の年代・性別が異なることから、適切なコミュニケーションを取るためには、別々のLINE公式アカウントが必要という結論に至りました。さらに、運用の中で各ブランドから得られた知見や気付きをマーケティング本部で集約し、横展開していくことでより良い運用方法につなげていく狙いもありました」(川村氏)
さらに、2015年10月にはアダストリアが展開する全25ブランドの公式ウェブストア「[.st](ドットエスティ)」のLINE公式アカウントを開設し、現在合計6つのアカウントを運用しています。
「 [.st]のLINE公式アカウントでは、クーポンなどの配信に加え、LINEログイン*を使ってお客さまのLINEアカウントと[.st]のサイトの会員IDを連携することで、お客さまに合わせた情報を提供しています。トーク画面から会員証のバーコードが表示できるほか、[.st]のサイトでチェックした商品のスタイリングや再入荷、在庫減少等の情報をLINEで送るなど、ユーザーの行動や興味関心に沿ったサービスを提供することを意識しています」(川村氏)
- LINEログイン:アプリやウェブサイトのアカウントをユーザーのLINEアカウントで簡単に作成したり、既存のアプリやウェブサイトのアカウントとユーザーの LINEアカウントを紐付けたりすることができる機能。
複数アカウントの知見を生かしてブランドごとのコミュニケーションを最適化
アダストリアでは、各ブランドのコミュニケーション戦略を、ブランドごとに配置される“ブランドプレス”が担当しています。20〜30代女性を中心に人気を集め、LINE公式アカウントの友だち数が630万人を超える「ローリーズファーム」は、アダストリアでも初期にLINE公式アカウントを開設したブランドの一つ。同ブランドのブランドプレスを担当する本後嬉々氏(以下、本後氏)は、現在のLINE公式アカウントの運用について以下のように語ります。
「売れ筋アイテムの紹介や季節ごとのアイテムコーディネート、さらにはセール情報といった直接的に購買意欲を高めるメッセージを配信するとともに、これから新たに展開していきたいアイテムに関するイメージ訴求として、読み物的なコンテンツやキービジュアルを定期的に配信しています。配信メッセージの内容やデザインに一貫性を持たせることに気を付けています」(本後氏)
また、複数のLINE公式アカウントを運用する中で得られた知見について、川村氏はこう語ります。
「例えば、あるブランドのアカウントではセール情報を載せたメッセージのCTRが高いけれど、別のブランドのアカウントではコーディネート情報への反応が良いなど、ブランドごとにユーザーに喜ばれるメッセージが異なることが見えてきました。各ブランドのアカウントから得られるこのようなデータをマーケティング本部で集約し、ユーザーへの理解を深めて各ブランドプレスに知見を共有していくことで、個々のブランドのファンへのコミュニケーションの最適化を図っていきたいと思っています」(川村氏)
イベントの応募から入場まで、LINE公式アカウントで完結
2018年11月に開催した、ローリーズファームがファンにブランドの世界観を体験してもらうイベント「LOWRYS FARM FES 2018」では、 イベントへの応募や当日の入場の手続きにLINE公式アカウントが活用されました。
「イベントのターゲットとなる20~30代女性のスマホには、たいていLINEがインストールされています。普段利用しているLINEから手軽に応募できれば、新たにアプリをインストールしたり、サイトへ会員登録を行ったりなど、煩雑な手続きは必要ありません。LINEを活用して応募のハードルを下げることが狙いでした」(本後氏)
実際の応募から入場までの流れとしては、最初に店舗もしくは[.st]でローリーズファームの商品を5,000円(税込)以上購入すると、応募用QRコード*が配布されます。ユーザーがQRコードを読み込むと、ローリーズファームのLINE公式アカウントへ誘導され、そこで友だち登録。同時に簡単なアンケートに回答すると応募が完了し、 LINE公式アカウントからその場でサンクスクーポンが配信されます。後日、当選したユーザーにはイベント来場受付用のQRコードが送られます。当日、イベント会場ではユーザー自身が配布されたQRコードで受付を行います。
- 「QRコード」は、デンソーウェーブの登録商標です。
アダストリアとしても、ローリーズファームとしても初の取り組みとなったイベント受付について、本後氏はこのように振り返ります。
「LINE公式アカウントからの応募フローがシンプルだったため、店舗スタッフからも『わざわざ事細かに説明をする必要がなく、店舗での接客業務に専念できた』という声があがりました。また、リッチメニュー上にイベントに関する問い合わせに対応できるようにQ&Aコーナーも設置し、キーワード応答メッセージ機能を使って自動応答で回答するようにしたところ、イベントの事務局を設置する必要がないほど、問い合わせ数が減少しました。いずれも、LINE公式アカウントを活用したイベント応募受付フローが、ユーザーにとってわかりやすいものとして受け入れられたからでしょう。結果として、過去に開催した同様のイベントと比較しても、応募率(参加権を獲得した人数内、実際に応募を行なった人数の比率)が大幅に向上しました。今後は、イベントに参加してくださったコアなファンの方々へのコミュニケーションも考えていきたいです」(本後氏)
最後に、川村氏は今後の展開についてこう付け加えます。
「今回のLOWRYS FARM FES 2018のように、オンライン施策として活用していたLINE公式アカウントをオフライン施策と連動させることで立体的なコミュニケーションへとつなげられたこと、そこからリッチなユーザー体験を提供できたことは、アダストリアとしても今後の戦略立案の大きなヒントになりました」(川村氏)
(公開:2019年2月/取材・文:安田博勇、写真:山﨑美津留)
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