主に女性向けのコンフォートシューズの企画から販売までを手掛ける株式会社AKAISHI(以下 AKAISHI)は、データに基づいた商品開発で人それぞれに異なる足の悩みを解消しています。2018年にLINE公式アカウントを導入したAKAISHIは、メールマガジンからLINE公式アカウントへ、プロモーション手法の中心を切り替えつつあります。
現状の成果や活用方法、今後の展望などについて、LINE公式アカウント運用を担当する株式会社AKAISHIの小林宏紀氏(以下、小林氏)と碓井綾花氏(以下、碓井氏)に話を伺いました。
- ECサイトへの流入数を増やしたい
- スマホユーザー増加に伴い、メールマガジンに代わるコミュニケーション手段を開拓したい
- LINE公式アカウントを開設し、クーポンなどインセンティブを発行することで友だち追加を促進
- 画像を組み合わせたリッチメッセージを配信
- 1年間で10,000人以上の友だちを獲得
- 送客率はメルマガの2.81倍
- メルマガに比べ、短期間で新規顧客の獲得に成功
スマホユーザーの流入増で売り上げの底上げを狙う
AKAISHIはカタログ通販・ECサイトをメインに、静岡県・東京都・千葉県に直営店として実店舗を構えています。これまで、プロモーションの中心は自社ECサイトで購買経験のあるユーザーに対するメールマガジンの配信でした。
「メルマガ経由のコンバージョン率が高いことから、登録してくださっているのはロイヤルティーの高いお客さまだと感じています。もともとAKAISHIのメインターゲットは50代以上の女性で、PCからの流入が多い印象でした。しかし、スマホの普及によってメルマガを読んでくれるお客さまも徐々に減少してきていることから、スマホ経由の流入を増やし、売り上げを底上げしたいと思っていました」(小林氏)
株式会社 AKAISHI DMセクション マネージャー 小林 宏紀氏
スマホからの流入増を模索するなか、LINE公式アカウントの導入について検討が始まりました。
「導入を検討し始めた頃、LINE公式アカウントに集客チャネルとしてどれほどの効果があるのかは未知数でした。当時はECサイトへの流入者数をデバイス別に見ると、PCからの流入が65%を占めていたので、スマホよりPCからの流入が大切という見方もできました。しかし、スマホからの流入数が徐々に増加し、比率が逆転してきたタイミングで、今後の売り上げに影響が出てしまうという危機感があり、LINE公式アカウントの導入を決めました」(小林氏)
検討の結果、2018年にLINE公式アカウントの運用をスタートしました。「決定してからは、すぐに運用を開始することができたので良かった」と小林氏は導入時について振り返ります。
LINEならではのコミュニケーションを
AKAISHIのLINE公式アカウントでは、テキストメッセージとリッチメッセージを中心に配信を行っています。
「リッチメッセージを作成するにあたっては、ユーザーにとってメリットが伝わる見出し、伝えたいことが瞬時に伝わることを意識しています。また、LINE公式アカウントの友だちとして、これまでメインのお客さまだった50代よりも下の世代にあたる40代の方の割合が増えているため、明るく、いわばノリの良いテキストも受け入れられると感じています」(碓井氏)
株式会社 AKAISHI DMセクション 碓井 綾花氏
AKAISHIはLINE公式アカウントを今後、メールマガジンを代替するプロモーションチャネルとして位置づけています。メールマガジンの配信対象者にはLINE公式アカウントへの移行を促しているほか、店舗に来店したユーザーに対しても積極的に友だち追加の声がけを行っています。
「店舗ではPOPを設置したり、販売時にレジで友だち追加をお願いしたり、カタログに広告を挟むなど、地道な取り組みを行っています。オフラインからのアプローチを大切にした背景としては、インターネットでの購買経験はなくても、LINEは利用しているというユーザーが多数いるという実感があったからです」(小林氏)
LINE公式アカウントで配信するクーポンや優待制度などのインセンティブで友だち追加促進の施策を展開しながら、友だちの維持にも成功しています。
「配信のタイミングや頻度に配慮して、ユーザーの負担にならないようにすることはもちろんですが、通常のプロモーションとインセンティブを加えたプロモーションのバランスにも気を遣っています。ユーザーには、LINE公式アカウントの友だちになってくれた後のメリットもお伝えし、友だち追加をお願いしているからです」(小林氏)
AKAISHIのLINE公式アカウントに対しては、ユーザーからもポジティブな反応があり、小林氏は「お客さまもLINE公式アカウントを望まれていたのだと思います」と語ります。
購買経験者だけでなく新規ユーザーにもリーチ
「気楽に始めたLINE公式アカウントでしたが、結果が良すぎて本当に驚いています」と小林氏が語るように、友だち数の増加とともに予想以上の成果が現れています。
「約2カ月で友だち数は3,000人を突破、今では10,000人を超えています。メルマガでは10年をかけてじっくりと配信リストを増やしてきたので、ここまでの効果は想定していませんでした。コンバージョン率はLINE公式アカウントとメルマガでほぼ同等の水準ですが、ECサイトへの送客率は、LINE公式アカウントがメルマガの2.8倍の結果を出しています」(小林氏)
また、ユーザー属性を調べた結果、現在の採算性だけでなく、将来性に期待が持てる幅広い層の友だちが獲得できています。
「LINE公式アカウントのユーザーは、メルマガに登録してくれているユーザーよりも購買にいたるまでの期間が短いと感じています。しかも、LINE公式アカウントは、メルマガに登録されていなかった層の方も積極的に友だち追加をしてくださっています。AKAISHIのお客さまの中心は50代以上、60代やそれ以上の方も多くいらっしゃいますが、LINE公式アカウントには30~40代のお客さまも数多くいらっしゃいます。これは、将来のコアユーザーだと考えています。これまでは、メルマガを通して現在ロイヤルティーの高いお客さまを維持する施策が中心でしたが、LINE公式アカウントを通して未来のロイヤルカスタマーを創造するための施策も打てるようになりました」(小林氏)
意外な波及効果として、他部署からLINE公式アカウントの運用開始に対して寄せられていた期待にも応えられるようになりました。
「プロモーション目的で始めたLINE公式アカウントでしたが、商品開発にも効果をもたらしています。商品開発のために行うユーザーテストの際、LINE公式アカウントを活用すると2日で約500件のサンプルが集まりました。ユーザーの声は商品開発のための重要な情報なので、マーケティング部門にも喜ばれています」(小林氏)
独自データを活用したサービス改善施策も視野に
AKAISHIは、義肢装具や介護靴など人間の身体能力を補うという設計思想から靴を企画製造している会社です。データにもとづく科学的アプローチで、個別のユーザーに合わせてフィッティングとカスタマイズをしていくサービスがこれまでもユーザーから評価されてきました。
「店舗では、センサーマットによる足のデータ測定と収集を行っています。個人の足の特徴にあわせてシューフィッターがソールや中敷きを加工したりするなど、これまでも独自のユーザーデータをサービスに活用してきました。この先、LINE公式アカウントのMessaging APIを活用することによって、LINEのデータと独自データを連携したコミュニケーションも展開したいと思っています」(小林氏)
さらに、今年の4月から順次移行が開始となったLINE公式アカウントについて、今後の展望を含めて小林氏は以下のように語ります。
「LINE公式アカウントが従量課金制になったことにより、メッセージの費用対効果に対する意識が高まりました。シミュレーションしてみたところ、LINE公式アカウントの効率性であれば予算内に収めやすいと予測しています。自社以外のECプラットフォームを販売チャネルとして活用することも考えていますが、ユーザーのボリュームを実績ベースで見ていくと選択肢がかなり限られてきます。もしECで利用できるLINEの機能がさらに充実すれば、ECチャネルとしてLINEを活用することについても前向きに検討したいと考えています」(小林氏)
(公開:2019年8月/取材・文:長尾和也、写真:慎芝賢)
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