全国に300店舗以上を展開する居酒屋チェーン「串カツ田中」は、再来店頻度をKGI(経営目標達成指標)に掲げ、数々のマーケティング施策を打ち出しています。その柱となっているのが、モバイルオーダー機能を持つ「ダイニー」のLINEミニアプリ を活用したCRM(顧客管理システム)です。
ダイニーで適切に取得したデータを用いて、LINE公式アカウント から再来店を促す方法と成果について、株式会社串カツ田中(以下、串カツ田中)の取締役・織田辰矢氏 (以下、織田氏)と株式会社dinii(以下、dinii)の執行役員・益子雄児氏(以下、益子氏)に話を聞きました。
- スタッフ不足が深刻化、オペレーションを効率化したい
- 顧客データを分析して再来店を促進、売上アップにつなげたい
- モバイルオーダー機能を持つ、LINEミニアプリ「ダイニー」導入
- 来店14日後のユーザーにクーポン配信
- ユーザーの来店頻度や注文メニューに応じたメッセージ配信
- リッチメニューに「採用情報」掲載
- ダイニー導入から4年で人件費率2.8%改善
- 3カ月で再来店率が5.4%向上
- 月間100~200件ほどのパート・アルバイト応募
友だち集めも期待できる「ダイニー」のLINEミニアプリ
いまや日本で最も有名な居酒屋チェーンの1つと言っても過言ではない「串カツ田中」は、2015年にLINE公式アカウント(当時はLINE@)の運用を開始し、クーポン配布などで集客に活用してきました。現在は店舗ごとにアカウントを開設し、計約380万人の友だちを有しています(2024年6月時点)。
2020年にはモバイルオーダー機能を持つ「ダイニー」のLINEミニアプリを採用。2023年12月には直営全150店舗への導入が完了しました。「ダイニー」を選んだ理由について、串カツ田中の織田氏は「LINEとの親和性に魅かれた」と振り返ります。
「2019年頃から各店舗のスタッフ不足が深刻化し、オペレーションの効率化を図るためにテーブルオーダーシステムの導入を検討しました。タブレット型など各社のサービスを比較するなかで、単にお客様の注文体験を向上させるだけでなく、“顧客データを適切に取得・活用して売り上げアップにつなげられる”というダイニーのコンセプトに魅力を感じて、導入を決断しました」
「ダイニー」は2019年からdiniiが飲食店向けに提供を始めたサービスで、来店ユーザーが自身のスマホから注文できる点が特長です。「コロナ禍の非接触需要で導入数を大きく伸ばし、累計利用者数は1,700万人を突破しています(2024年7月現在)」と、diniiの益子氏は語ります。
串カツ田中では、テーブルごとに専用のQRコードを設置。それをユーザーがスマートフォンで読み込むとダイニーのLINEミニアプリが立ち上がり、注文ができるようになるという仕組みです。初回利用時にスムーズに店舗のLINE公式アカウントを友だち追加できる(※1)ため、来店時にダイニーの利用を促すことで友だち集客も促進できます。
1 LINE公式アカウントの友だち追加にはユーザーの許可が必要です
「LINEミニアプリの導入にあたって、POSもダイニー社のものに入れ替えました。既存のPOSに比べて使いやすく、メニューや価格表示を本部で一括して変更できるようになるなど、運用・管理にかかる手間が大きく軽減されました。注文以外の現場のオペレーションはほぼ変わっておらず、ダイニーの導入に際してネガティブな要素はほとんどありませんでした。毎週のように管理ツールのバージョンアップがされて、機能面の強化のみならず、UI(ユーザーインターフェース)もどんどん使いやすくなっている印象です」(織田氏)
データ活用し来店後にクーポン配信、3カ月で再来店率が5.4%向上
串カツ田中では、現在、ほぼすべての注文がダイニーのモバイルオーダーを通じて行われています。グループ代表だけでなく、全メンバーがスマートフォンを使ってモバイルオーダーを利用することを促進するため、来店時には全員で楽しめる特典付きのミニゲームを提供しています。
「そうして、ダイニーのLINEミニアプリを通じて適切に取得した、来店日や注文メニュー等のデータをLINE公式アカウントのメッセージ配信に活用(※2)することで、再来店率の大幅アップを実現しています」(益子氏)
2 LINEミニアプリを通じた各種データの取得・活用にはユーザーの許可が必要です
「2023年7月から、来店14日後にクーポンの自動配信を始めたところ、わずか3カ月で再来店率が5.4%向上しました。また、①初めて来店されたお客様 ②半年以上来店されていないお客様 ③過去3回以上来店されたお客様(常連客)の3つのステータスに応じて、クーポンを配布しています。②に関しては、再来店率の底上げを実現する上で特に重要な層なので、店舗の立地や運営状況によって3種類のクーポンを出し分けて、さらに利用率の向上を図っています」(織田氏)
2023年7月より、初回来店から14日後にクーポン配信を開始し、再来店率の向上につながる
ユーザーのステータスに応じて、再来店につながるクーポンを配信
ダイニーではユーザーの来店日や来店回数だけでなく、注文したメニューや利用金額などのデータも記録されるため、「たとえば、ビールをよく注文されているお客様にだけ、生ビール半額クーポンを送るといった活用も可能になります」と益子氏は説明します。
「来店頻度を向上させる施策としては、1カ月間、ドリンクが大幅割引になる『田中で飲みPass(以下、飲みパス)』というサブスクサービスを実施しており、効果を感じていました。しかし、ダイニーのデータで利用状況を詳しく分析したところ、有効期限が過ぎると再来店率がガクンと落ちていることがわかりました。
そこで『飲みパス』からランクアップできる『田中で飲みPassゴールド』を新たにつくり、2カ月目以降の再来店率向上を後押ししました。このように施策の問題点を見つけ出し、その対応策を講じられたのも、ダイニーよって来店ユーザーのデータを可視化できるようになったおかげです」(織田氏)
ダイニーのLINEミニアプリとLINE公式アカウントを軸とした再来店施策は着実に成果を上げ、いまや売上の約半分をリピーターが占める店舗も見られます。東京都多摩市の京王永山店では、リピーターが新規顧客を連れてくる頻度も高く、売り上げが右肩上がりで増えていくという好循環が生まれています。
串カツ田中 京王永山店ではリピーター顧客が新規顧客を連れてきて、全体の売上比率のうち約半数がリピーターが生み出していることがわかる
「初来店から1週間以内に再来店されたお客様においては、約半数が3回目も来店(=常連化)されるというデータが出ています。今後はLINEのメッセージ配信をさらに工夫して、いかに再来店期間を短縮できるかがポイントです。それに伴い、2024年度は一人当たり平均2.5回のリピ―ト利用を目標に掲げており、約5億円の売上アップを目標にしています」(織田氏)
※リピーターの定義:2回以上来店している人
※リピート回数としてカウントできるのは、ダイニーのQRコードを読み込んだ人のみ
ダイニーのLINEミニアプリ導入から4年で人件費率2.8%改善
ダイニーのLINEミニアプリ導入から約4年が経過して、串カツ田中では再来店率、売上の向上以外にもさまざまな成果が出ています。
「ダイニーによって店舗のオペレーションが効率化される一方、売上は増加傾向にあるので、相対的に人件費率が下がっています。しかも導入店舗数が増えるほど、人件費率が下がるという相関関係がハッキリしています。ダイニー導入前の2019年と、全店導入を完了した2023年を比べると2.8%も人件費率が改善されました。アルバイトスタッフの時給が引きあがる傾向にある中でこの数字ですから、店舗経営に大きなインパクトがあります」
お客様の利便性や業務効率改善による生産性の向上などから、収益改善につながっている
また、LINE公式アカウントのリッチメニューに「採用情報」ボタンを設定することで月に100~200件ほどの応募があり、採用活動にもLINEが一役買っています。
「リッチメニュー経由で応募してくるパート・アルバイトは、その店舗の近郊に住んでおり、実際に顧客として串カツ田中を利用したことがあるため、ミスマッチも起こりにくいと感じています」
リッチメニュー(赤色枠)に「採用情報」を設定して、人材募集にも活用
ダイニーの投げ銭機能「推しエール」もパート・アルバイトのモチベーションアップにつながっていて、月に6万円以上の投げ銭を得たスタッフもいたそうです。
LINE公式アカウントの積極的な活用で数々の成果を上げている串カツ田中。最後に今後の展望について織田氏と益子氏に聞ました。
「マーケティング施策でどれだけ集客したとしても、結局、QSC(品質・サービス・清潔さ)が悪ければ、再来店率は向上しません。来店の翌日にLINE公式アカウントで自動配信しているアンケートなどを活用しながら、各店のQSCを上げて、着実に再来店率を向上させていきたいと思います。今後も“また来たい、大切な人を連れていきたい”という店づくりをしていきます」(織田氏)
「ダイニーによるデータ分析と、その結果に基づくLINEの集客施策は、個店でも十分に効果があると思います。たとえば個人経営の店舗などであれば、『今日、珍しい食材が入ったので新メニューを提供します!』といったメッセージを、一定期間、足が遠のいているお客様にメッセージ配信するのも効果的ではないでしょうか。工夫次第で再来店率を大きく向上できるのがLINEの面白さだと思うので、さまざまな活用法を模索していきます」(益子氏)
(公開:2024年7月、取材・文/岩﨑史絵、写真/山﨑美津留)
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