株式会社NTTドコモ(以下、NTTドコモ)が提供する「dポイントクラブ」は、約9,400万人(2023年3月時点)の会員数を誇るポイントプログラムです。NTTドコモはdポイントクラブの拡大に向け、2020年7月にLINE公式アカウントを導入。dアカウントの会員データとLINEアカウントのID連携を推進して、One to Oneコミュニケーションの実現を目指しています。ID連携によってどのような世界観を描いているのか、NTTドコモの橋田直樹氏(以下、橋田氏)、須藤志保氏(以下、須藤氏)、同社のLINE活用を支援する株式会社電通デジタルの吉田 圭氏(以下、吉田氏)に聞きました。
- dポイントクラブのコミュニケーションチャネルを拡充したい
- dアカウントの会員データとLINEアカウントのID連携を推進し、One to Oneコミュニケーションを実現したい
- 電通デジタルの提供する「TONARIWA」を導入し、One to Oneコミュニケーション実現の基盤として活用
- ユーザー一人ひとりに合わせたメッセージの配信やリッチメニューを掲載
- 自社施策やダイレクトミッションスタンプを活用したID連携の推進
- ダイレクトミッションスタンプの活用により、これまでリーチできなかったユーザーの会員化とID連携数の増加に成功
- ID連携ユーザーのキャンペーン参加やdポイントの利用が活性化
LINEの開封率の高さに期待し、新しいタッチポイントとして導入
「dポイントクラブ」は、NTTドコモが提供する会員制のポイントプログラムです。dポイントは全国の加盟店での買い物やオンライン決済などに利用でき、会員数も年々増加しています。
「当社はキャリア事業やWi-Fiサービスをはじめ、クレジットカードのdカード、動画配信サービスの契約受付など多岐にわたる事業を展開しており、dポイントクラブに入会しているとこれらの利用時にポイントが貯まっていきます。利用できるサービスの広さからポイントが貯めやすく、会員限定クーポンなどお得な情報が充実している点も多くの方に支持されています」(須藤氏)
株式会社NTTドコモ スマートライフカンパニー コンシューママーケティング部 須藤志保氏
NTTドコモがdポイントクラブのLINE公式アカウントの運用を開始したのは2020年7月のこと。開設以前は同社が展開するメールサービスのほか、アプリのプッシュ通知などを通じてユーザーに情報を発信していました。
dポイントクラブのLINE公式アカウント運用を支援する電通デジタルの吉田氏は、当時の状況を次のように振り返ります。
「NTTドコモは多数のWebサイトやアプリなどのメディアを展開していることから、強い集客力と発信力を持っています。そのため外部のツールやメディアを利用する機会はあまりなかったのですが、既存の手法ではリーチできないユーザーもいました。LINE公式アカウントを導入した2020年はdポイントクラブの拡大に向けてプロモーションを強化していた時期で、外部ツールを用いてコミュニケーションの幅を広げたいと考えていました」(吉田氏)
株式会社電通デジタル トランスフォーメーション領域 BIRD部門 サービスイノベーション事業部 事業部長 ワークショップデザイナー 吉田 圭氏
数あるツールからLINE公式アカウントを選んだ理由は、メッセージの開封率の高さにあるといいます。
「メールに比べると、LINE公式アカウントは開封率が高く、ユーザー側もコミュニケーションチャネルとして受け入れやすいという強みがあります。中にはメールをメインに使っている方もいますし、アプリのプッシュ通知のほうが便利という方もいるでしょう。それぞれのユーザーに適した情報を適したツールでお届けすることが、企業としての正しいコミュニケーションの形であると考え、LINE公式アカウントを導入することにしました」(橋田氏)
LINE公式アカウントからメッセージを受け取った場合、その日のうちに8割が開封する
ID連携を促進し、One to Oneコミュニケーションの実現を目指す
NTTドコモが持つ既存メディアの中でLINE公式アカウントの存在感を高めていくには、アカウント自体の発信力や影響力を高める必要がありました。その源泉となるのが「友だち」の数と考え、運用1年目はLINE公式アカウントの友だち集めに注力したといいます。
運用が2年目に入った2021年には、NTTドコモが提供するサービスの共通IDである「dアカウント」の会員データと、ユーザーのLINEアカウントのID連携(※)を開始。その背景には、友だちに対して最適な情報を届けるなどのOne to Oneコミュニケーションを実現し、dポイントのさらなる活性化につなげたいという目的がありました。
※ ユーザーの許諾を得た上で連携されます
One to Oneコミュニケーション実現の基盤として活用しているのが、電通デジタルが提供するOne to Oneコミュニケーションサービス「TONARIWA」です。ID連携を推進することで、友だちとなっているLINEユーザーがどのようなサービスを好んで利用しているのか、興味があるサービスや店舗はどこなのかといった傾向がdアカウントの会員情報や行動、決済履歴をもとに可視化できるようになりました。NTTドコモではこの情報を基にユーザーの好みや利用状況に応じたメッセージを出し分けています。
ID連携したユーザーへのメッセージ配信イメージ。ユーザーの好みや利用状況に応じた情報をLINE公式アカウントから配信
また、TONARIWAの機能を活用して、LINE公式アカウントのリッチメニューをID連携したユーザーと未連携のユーザーごとに出し分けています。
「現在はタブを2つに分けて、特に見ていただきたいコンテンツは左側の『おトクな情報』タブ、時間がある時に見ていただきたいものは右側の『お役立ちメニュー』タブに掲載しています。そしてコンテンツ自体もID連携の有無からさらにターゲティングで出し分けており、ID連携していない方には連携を促す内容を掲載しています」(須藤氏)
ID連携していないユーザーに表示されるリッチメニューのイメージ
ID連携しているユーザーに表示されるリッチメニューの一例
ダイレクトミッションスタンプで、ID連携を促進
NTTドコモではID連携数を増やすため、dポイントが当たる「LINE毎週くじ」などのキャンペーン実施や、会員向けクーポンを配布しています。
中でも「LINE毎週くじ」は、ID連携数の増加に大きく貢献しています。ID連携したユーザーが参加でき、キャンペーンに参加すると抽選でポイントが当たる仕組みです。くじは2021年から開始しました。
「くじの形でID連携を促すことで、義務やタスクではなく楽しみながら参加し、ID連携いただくことができると考えています。さらに定常的に実施することで新規の友だちはもちろん、既存の友だちにも楽しんでいただくことができ、dアカウントの継続意向を高める取り組みの一つとなっています。また、ポイント付与によって、ライトユーザーにもdポイントを使っていただくきっかけになっています」(須藤氏)
ID連携を促進する「LINE毎週くじ」のメッセージ配信
また、LINE公式アカウントの友だちではないユーザーに友だち追加とID連携を同時に促すため「ダイレクトミッションスタンプ」を活用しています。ダイレクトミッションスタンプはLINEプロモーションスタンプのプランの一つで、ユーザーがアンケート回答やID連携などのミッションを完了すると、スタンプがダウンロードできる仕組みです。ダイレクトミッションスタンプを活用することで、短期間でID連携者数を増やすことができます。
「dポイントやクーポンなどの特典に魅力をあまり感じない方に同じような訴求をし続けても、ID連携をしてもらうことはできません。しかし、ダイレクトミッションスタンプを併用すれば、そうしたユーザーの集客が見込めます。また、スタンプのクリエイターのファン層の興味も引くことができるので、リーチできる範囲を広げられると考えました」(吉田氏)
これまで同社が実施したダイレクトミッションスタンプは計2回。自社オウンドメディアやSNSのほか、LINE公式アカウントからのメッセージ配信やLINE広告にも出稿して告知しました。その結果、これまでdアカウントの会員ではなかった新規ユーザーの会員化やID連携数の増加に寄与しました。
過去2回実施したスタンプのクリエイティブ
すべてのユーザーにおすすめできるアカウントを目指して
ID連携の有無ではメッセージの開封率にあまり差はないものの、dポイントの活用度はID連携ユーザーのほうが未連携ユーザーよりも高く、LINE公式アカウントのブロック率も低い傾向が見られています。
また、dポイントクラブの加盟店が開催するキャンペーンへの参加率も、自社オウンドメディアやメールなどでの告知に比べて、LINE公式アカウントのID連携ユーザーへの告知のほうが高い傾向にあり、One to Oneコミュニケーションの効果が見られています。加盟店からの反応も好評で、メッセージ配信での告知を希望する問い合わせが絶えないそうです。
「店舗とユーザーの双方に喜ばれる案内を送ることで、ユーザーもさらにdポイントクラブのLINE公式アカウントを信頼して、よりdポイントを使うようになるという循環が生まれます。その循環によって、店舗にとってもさらなるエンゲージメントの向上が期待できます。
また、ID連携を経てユーザーの行動履歴を基に最適な情報を発信することで、dポイントクラブの利用状況にも大きなリフト効果が出ました。さらに最適化を進めることができれば、将来的にはマーケティングオートメーションのチャネルとしてLINE公式アカウントを活用できると考えています。その世界観を目指してさらにID連携を拡大し、One to Oneコミュニケーションの規模を広げていくことを構想しています」(橋田氏)
株式会社NTTドコモ スマートライフカンパニー コンシューママーケティング部 コンシューママーケティング戦略担当部長 兼 dポイント担当部長 兼 デジタルマーケティング推進担当部長 橋田直樹氏
最終的には「日常をより豊かで楽しいものにするアカウントとして、ユーザーすべてが身近な人におすすめしたくなるアカウントに育てたい」と考えているそうです。その実現に向け、今後も一人ひとりに一層寄り添うLINE公式アカウントとして成長を目指していく予定です。
(公開:2023年10月、取材・文/岩崎史絵、写真/川嶌 順)
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