「Re&Go」は、NISSHA株式会社とNECソリューションイノベータ株式会社が共同開発した「容器のシェアリングサービス」です。サービス展開においては利用者のユーザーインターフェースとしてLINE公式アカウントが採用されていますが、その背景や狙いについてNISSHA株式会社の吉村祐一氏(以下、吉村氏)、NECソリューションイノベータ株式会社の加藤一郎氏(以下、加藤氏)に話を聞きました。
- 容器を捨てない仕組みをサービスとして提供し、ゴミ問題を解決するインフラをつくりたい
- 新規サービスのリリースに当たり、ユーザーの利用ハードルを下げたい
- サービスのインターフェースとしてLINE公式アカウントを採用
- 容器の利用・返却や利用可能店舗の検索機能を実装
- ユーザーやサービス全体の「環境貢献度」を可視化
- 実証実験の開始から約1年で友だち数は1万人を突破
- サービス全体で容器の削減個数は3万7,000個、CO2換算で1,423kgの削減量を記録
使い捨て文化を変える「容器のシェアリングサービス」
SDGsやESG、さらにはカーボンニュートラルなどの言葉を聞く機会が増えたように、環境問題への関心は日本国内でも高まりを見せ、各業界でさまざまな取り組みが進んでいます。NISSHA株式会社とNECソリューションイノベータ株式会社によって共同開発された「Re&Go」は、コンビニやカフェでドリンク類を提供する際に使用されている「使い捨て容器」の削減を目的とした、容器のシェアリングサービスです。
発案者はNISSHA株式会社の吉村祐一氏で、現在は同社事業開発室でRe&Goプロジェクトマネージャーを務めています。
「もともと、NISSHAは印刷会社として創業し、産業資材・デバイス・メディカルテクノロジーを手がけるメーカーです。2019年6月、新規事業開発の一環として株式会社フェニクシーが主催するインキュベーションプログラムに社員を派遣することになりました。そこへ、私が『プラスチックゴミ削減』というテーマを持って参加し、Re&Goの事業アイデアに行き着きました」(吉村氏)
NISSHA株式会社 事業開発室 Re&Goプロジェクトマネージャー 吉村 祐一氏
その後、事業のパートナーであるNECソリューションイノベータとの縁に恵まれ、2020年に共同開発がスタート。スターバックス コーヒージャパン、ローソン、その他個店オーナーの協力を得て、2021年11月に東京での実証実験を開始しました。同サービスを展開することで、吉村氏は「容器を捨てない仕組みから、ゴミ問題を解決するインフラをつくりたい」と話します。
LINEを起点にすることでユーザーの活用を促進
Re&Goでは、サービス利用者のユーザーインターフェースとしてLINE公式アカウントを採用。以下の流れでサービスが利用できます。
- Re&GoのLINE公式アカウントを友だち追加、ユーザー登録を行う
2. LINE公式アカウントのリッチメニューにある「容器を借りる」からQRコードの読み取り画面を呼び出し、店舗で提供される容器に記載されたQRコードを読み取る
3. 返却の際は再びリッチメニューの「容器を返却」をタップし、返却スポットに設置されたQRコードを読み取る
Re&Goで提供しているシェアリング用の容器。導入店舗に設置されているQRコードからLINE公式アカウントを友だち追加することで、サービスを利用できる。
ユーザーインターフェースとしてLINE公式アカウントを採用した背景を、吉村氏と加藤氏は以下のように説明します。
「海外で展開される類似サービスを見ても、多くの場合でネイティブアプリを開発して展開している事例がほとんど。しかし、日本国内でRe&Goが活用されるシーンを想定すると、ネイティブアプリは相応しくないと思ったんです。なぜなら、『Re&Goを使う』ために加盟店舗まで赴く人は少ないと予測していたから。それより、スターバックスやローソンでいつものようにコーヒーを購入するユーザーに店頭で認知してもらい、お試し感覚で利用いただくイメージを持っていました。であれば、その場でアプリをダウンロードする手間が発生するネイティブアプリではなく、LINEを起点にすればユーザーの利用ハードルも低くなると考えました」(吉村氏)
一方、Re&Goの共同開発者であるNECソリューションイノベータ株式会社の加藤氏は、自身の経験からチャットボット機能を導入の利点に挙げます。
「Re&Goでは、LINE公式アカウントのリッチメニューから自社で開発したチャットボットが立ち上がり、さまざまな用件・質問に自動応答しています。元々、当社にはLINEとチャットボットを併用し、電力使用明細をスマホで撮影・送信すると、電気事業者選定の比較検討が行える見積ツールを開発したノウハウがありました。今回のサービスのように、利用者に新たな社会行動を提案すれば、当然その反動として多くの問い合わせ対応が想定されます。チャットボットであれば、問い合わせの内容・頻度に応じて学習させることで、人による問い合わせ対応の手間が軽減できます。実際、現在までの学習成果で、ほとんどの問い合わせパターンにチャットボットが対応してくれるようになりました」(加藤氏)
NECソリューションイノベータ株式会社 イノベーション推進本部 プロフェッショナル 加藤 一郎氏
リッチメニューにはチャットボットのほか、「問合せフォーム」や「アンケート」も設置されています。特に自由記述形式のアンケートは熱意が感じられる長文の回答も多く、サービスの改善に役立っているといいます。
ユーザー個人・サービス全体の「環境貢献度」を可視化
Re&Goは2021年11月22日から2023年3月まで、丸の内・渋谷周辺エリアにおいて東京オフィス街を想定した実証実験を実施しています。LINE公式アカウントの友だち数は、2022年12月時点で1万人を突破。
サービスが利用できる加盟店はリッチメニューの「お店を探す」から検索可能で、容器を借りる店舗と返却店舗が異なっていても利用可能。もし返却を忘れている場合でも、一定期間が経過するとLINE公式アカウントから通知が届きます。なお、容器は輸送パートナーによって回収され、規定の基準で洗浄作業が行われた後、加盟店に納品されています。
また、リッチメニューからはユーザーの利用頻度に応じて測定される「環境貢献度」(使い捨て容器の削減個数・CO2削減量)が確認できます。個人単位だけでなく、全ユーザーの環境貢献度を閲覧することもできるため、環境貢献活動への参加意識も高まります。なお、2022年12月末時点で容器の削減個数は3万7,000個、CO2換算で1,423kgの削減量を記録しています。
LINE公式アカウントのリッチメニューから、環境貢献度が確認できる。数値算出に当たっては東京大学の地域循環共生システム研究室、地球・人間環境フォーラムの監修や協力を得ている(数値は2022年6月時点)。
「ユーザー属性も把握していますが、想定より幅広い年齢層にご利用いただいています。また、アンケートではサービスに好意的な反応を示すユーザーが多く、利用継続に関しての手応えを得ることもできました。意外だったのは、Re&Go利用の理由として『環境問題以外』の内容を挙げるユーザーが多かったことです。そもそも、シェアリングサービスへの関心度が高いことに加え、割引・デザイン性・機能性・利便性などを評価するコメントが多数寄せられました。環境問題への取り組みを促進するには、“それ以外”の要素がポイントであると気付かされました」(吉村氏)
Re&Goは2023年中の本格的な事業化とエリア拡大、2024年には対象サービスの拡大を目指していますが、加藤氏・吉村氏の両名は今後の取り組みやLINEへの期待について以下のように話します。
「IT会社の立場で申し上げれば、迅速にサービスをアップデートできる点はLINE導入の大きな利点です。例えば、ネイティブアプリやウェブサービスであれば、最新版リリースのたびにサービスを止め、アップデート作業を行う必要があったかもしれません。ユーザーと運営チームの双方に負担をかけない点も、LINE導入の大きな魅力だと思います」(加藤氏)
「世界的なSDGsの盛り上がりにより、ビジネスにおいても環境への貢献を無視できない情勢です。今後はRe&Go以外にも、環境貢献型のビジネスが生まれていくはずです。私個人の期待にはなりますが、例えば、LINEのプラットフォーム上でそうしたサービス・アプリが整理・分類されていけば、ユーザーも自分に合ったサービスを選べるはず。それができるプラットフォームは、日本にLINEしかないと思います。Re&Goはそうした世界の中で、より多くの方に選ばれるサービスになっていきたいです」(吉村氏)
(公開:2023年1月、取材・文/安田博勇、写真/佐坂和也)
※本記事内の数値や画像、役職などの情報はすべて取材時点のものです
※本記事内の実績は取材先調べによる数値です
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