首都圏1都3県の東急沿線を中心に85店舗(2020年2月末現在)を展開しているスーパーマーケット「東急ストア」は、ユーザーとの関係性を強化するための基盤としてLINE公式アカウントを導入しています。同店舗の取り組みについて、東急株式会社(以下、東急) 経営企画室 マーケティング・IT推進グループ マーケティング担当の乗松康行氏(以下、乗松氏)に話を聞きました。
- スマートフォンを介してユーザーとの関係性を強化したい
- 顧客分析を行い、ユーザーニーズを把握したい
- LINE公式アカウントとLINE Payを導入し、集客から決済、情報発信までのユーザーコミュニケーションをLINE上で実現
- 既存のポイントカードの会員情報とLINEアカウントのID連携を推進し、メッセージやクーポンをユーザーごとに出し分けて配信
- メールに比べLINE公式アカウントから配信したメッセージの開封率が16.0%から76.4%に大幅増加し、クリック率も約6倍に伸長
- ID連携を行ったユーザーの月間平均来店数が約130%に増加
「買い物をすると友だちになる」をLINEで実現
東急グループは1922年の当社創立以来、約100年にわたって交通事業や不動産事業を主軸に街づくりをすすめてきました。東急ストアはこの東急グループの一員として、1956年に開店したスーパーマーケットです。
長い歴史を持つ東急グループでは、これまでオフラインでの接点を基盤にユーザーとの関係を深めてきました。近年はデジタル化の流れに伴い、オンライン施策に着手しましたが、個々の事業会社がバラバラに施策を進めたことで、グループ全体を通したユーザーニーズの把握ができていないという課題を抱えていました。
こうした中、東急ストアは全店共通のLINE公式アカウントを2019年9月に開設。これまでLINE公式アカウントを運用している店舗も存在していましたが、運用店舗数が少なかったこともあり、本社主導での統合に踏み切りました。そのきっかけは、同年10月の消費税増税を前に注目を集めたQRコード決済です。
「競合のスーパーマーケット事業者が、消費税増税のタイミングに合わせて次々にQRコード決済サービスを導入していきました。当時は他社が相次いでQRコード決済を活用したポイントバックキャンペーンを展開したため、お客さまが他社へ流れてしまう恐れもありました。そこで、東急ストアも早々に作戦を考えないといけないという危機感が生まれたのです」
東急株式会社 経営企画室 マーケティング・IT推進グループ マーケティング担当 課長 乗松康行氏
当初、東急ストアもQRコード決済サービスの導入を検討していました。しかし、キャンペーンを行ってその都度集客するのではなく、これを機にスマートフォンを介したユーザーとの関係性を強化したいと考えました。この構想をLINEに相談して始まった取り組みが、LINE公式アカウントとモバイル送金・決済サービスのLINE Payの併用によるCRM基盤づくりです。導入の決め手となったのは、LINEならではの自然なコミュニケーションだといいます。
「ユーザーがLINE Payで決済すると、LINE公式アカウントを友だち追加できるという流れ、いわば『買い物をすると友だちになる』というつながりが自然に実現できると聞き、ほかの決済サービスにはない魅力を感じました」
実は当時、社内ではQRコード決済を導入しても、全体の売り上げにそれほど大きな貢献は見込めないとの意見が多くありました。もともと東急グループではクレジットカード事業を展開しており、売り上げの4割はキャッシュレス決済が占めていたため、「競合のようにスマートフォン決済で伸びる余地は少ないのではないか」という見解だったそうです。
「LINEは、単なるキャッシュレス決済機能ではなく、ユーザーとの関係性が強化できること、さらに、ほかのSNSと異なり、One to Oneコミュニケーションを実現できるというメリットがあります。TwitterやInstagramのようなSNSはどうしても不特定多数に向けた発信になります。対してLINEは、友だちに手紙を出すようなイメージで活用でき、きめ細かいコミュニケーションが行えることが大きな価値だと感じました」
友だち数・ブロック率・ID連携率の3つの指標で成果を把握
LINE公式アカウントの運用に当たって設定したKPIは「友だち数」「ID連携率」「ブロック率」の3点です。
導入当初、LINE公式アカウントの友だち集めはLINE Payの決済後に友だち追加してもらう流れが主流となっていました。2020年3月からLINE PayのLINE公式アカウントからも毎月19日(東急の日)に限定クーポンを配信してもらうことで、友だち数を徐々に増やしていきました。
さらに、同じタイミングから店内のポスターや紙レシートに「いまなら友だち追加で5%OFFクーポンプレゼント」と案内を提示。これにより、3カ月で友だち数が4倍に増加しました。
東急の日(19日)限定クーポン(写真左)、店内で掲載したポスター(写真右)
ID連携率は、既存のポイントカード「TOKYU POINT CARD」の会員情報とLINEアカウントの ID連携を図るもので、2020年4月から案内を開始しました。ID連携をすると自社ポイントを200ポイント付与するなどの施策を展開し、現在は沿線のTOKYU POINT CARD保持者の約7%に当たる8万人がID連携をしています。
「ID連携によってLINE Payの使用時だけでなく、東急グループで実際に購入した金額が把握できるようになり、より詳細なデータ分析が可能になります。たとえば、来店頻度や曜日などが分かれば、これまでは可視化できなかったニーズが見え、お客さまの満足度向上につながる企画がつくれるかもしれません」
そして3つのKPIのうち、特に乗松氏が注目しているのがブロック率です。
「仮にお客さまが当店に不満を抱いていても、一人ひとりの意見を汲み取ることはできません。ですが、ブロック率は『不満がある(のでブロックした)』ということが明確に表れる数値です。そのため、運用においてはブロック率を過度に恐れるのではなく、トライ&エラーを繰り返しながらユーザーが心地よいと思える関係を見つけるための指標だと捉えています」
コロナ禍でもLINEが活躍
東急ストアのLINE公式アカウントは、2020年10月時点で友だち数が17万4,804人、ブロック率は11.1%、ID連携率は52.8%(当初の目標値20%)と、CRM基盤として着々と成長しています。
LINE公式アカウントの導入前から行っていたメール配信では、開封率16.0%、クーポンのリンクへのクリック率は3.9%に留まっていました。しかし、LINE公式アカウントから配信するメッセージは開封率が76.4%、クリック率が24.7%と大きく改善しています。
さらに同社では、ID連携をしているユーザーに対して、前月の購買状況に合わせてクーポンやメッセージの案内を出し分け、来店を促しています。実際に施策を開始してからID連携をしているユーザーの月間平均来店数が約130%に伸長しました。
直近で大きな反響があったメッセージは、コロナ禍における緊急事態宣言下での営業時間変更を知らせる案内です。問い合わせ対策としてLINE公式アカウントを通じて営業時間の案内を配信したところ、開封率73.1%、クリック率46.1%を記録。事前にLINE公式アカウントを開設していたため、緊急事態時においても適切なコミュニケーションを迅速に取ることができました。
コロナ禍による営業時間変更の告知
今後もLINE公式アカウントを活用し、東急ストアをより身近な存在に感じてもらうための施策を展開していくといいます。
「LINEはいまや日常生活の中に浸透し、ユーザーにとって最も身近なコミュニケーションツールとなっています。LINE公式アカウントを活用したさまざまな施策を展開することで、お客さまとの関係をより深くしていきたいと考えています」
※記事内の数値はすべて同社調べ
(公開:2020年11月/取材・文:岩崎史絵、写真:小川孝行)
※本記事内の数値や画像、役職などの情報はすべて取材時点のものです