サントリー食品インターナショナル株式会社(以下、サントリー食品インターナショナル)は、2019年6月にボトルスタイル・カフェ「TOUCH-AND-GO COFFEE」(東京・日本橋)をオープンしました。
LINE上で注文から決済まで完結する同店舗の顧客体験(CX)について、サントリー食品インターナショナル ジャパン事業本部 戦略企画本部 イノベーション開発部の髙橋大樹氏(以下、髙橋氏)に話を伺いました。
- 事前注文から決済までがLINE上で完結するモバイルオーダーを実現したい
- 直感的に注文方法がわかるよう、リッチメッセージやチャットボットを活用
- LINE上で注文から決済までが完結できるように設計
- LINE公式アカウントの友だち数はサービス開始から10日後に1万人、2020年4月現在で14万人に到達
自分好みのコーヒーをLINEで注文!新しい顧客体験の提供
サントリー食品インターナショナルが運営する「TOUCH-AND-GO COFFEE」は、事前注文から決済までがLINE上で完結するテイクアウト専用のボトルスタイル・カフェです。「これまで培ってきたコーヒーの加工技術を生かして、新たなライフスタイルを提案したい」という同社の思いから誕生した同店のコンセプトについて、髙橋氏は次のように説明します。
「サービス設計のコンセプトは、”Custom But Fast”です。“自分好みにコーヒーをカスタマイズできるのに、すぐ受け取れる”という、既存のカフェでは実現困難だった新しい顧客体験(CX)を提供しています」
「TOUCH-AND-GO COFFEE」は、友だち追加したLINE公式アカウント上で注文ができます。ベースドリンク(5種)、コーヒータイプ(2種)、シロップ(3種)、フレーバータイプ(4種)のほか、ボトルに貼られるラベルネームやバナーの色もカスタマイズが可能で、ユーザーはオリジナルのボトルコーヒーを簡単に手にすることができます。
直感的に注文方法がわかるよう、リッチメッセージやチャットボットを活用してわかりやすく説明。支払いはクレジットカードかLINE Payで事前決済する
「5分単位で受け取り時間の指定が可能で、店舗がある日本橋へ向かう電車内で注文するユーザーも多いようです。商品が完成するとLINEに注文番号が送付されます。指定した時間に店舗へ行き、自分の注文番号が書かれた無認証ロッカーからドリンクを取り出すだけです」
受け取り方法に関しては、当初ピックアップ専用のカウンターに商品を陳列するという案もありました。しかし、社内で実証実験を重ねた結果、「自分の商品が野ざらしになっていて不安」「自分のボトルを探すために、一つひとつラベルを確認しなければならないのは面倒」などの意見が寄せられたため、断念しました。QRコードなどを利用した認証式ロッカーの導入も検討したものの、受け取りに手間がかかり、即時性が低下してしまいます。
「安全性と即時性の両立を考えた結果、無認証ロッカーによるセルフピックアップ方式が最適だという結論にいたりました。性善説に基づいた設計ですが、これまで約3万個を販売してきた中で、取り間違えなどのトラブルは10件程度に抑えられています」
指定した時間に店舗へ行き、注文番号と同じ無認証ロッカーからボトルを取り出すと受け取りが完了
LINE公式アカウントだからこそ実現できた”Custom But Fast”
サービス設計の要として機能しているLINE公式アカウントですが、髙橋氏は「モバイルオーダー方式を採用するうえで、LINE公式アカウントの導入は必須だった」と説明します。
「理由は二つあります。一つは、利用のハードルを下げるためです。ネイティブアプリではダウンロードや会員登録などの手間が生じてしまいますが、LINEであればすでに多くのユーザーが利用し、LINE公式アカウントを友だち追加するだけで注文ができます。もう一つは即時性です。少ないタップ数で注文と通知が確認できるLINEは、説明書がなくても直感的に操作が可能なため、”Custom But Fast”の実現に必要不可欠でした」
手続きや自分のボトルを探さずに受け取ることのできる即時性を実現した
実際、広告宣伝をほとんど実施していないにも関わらず、LINE公式アカウントの友だち数はサービス開始から10日後に1万人、20日後には3万人を超えました。その後、SNSでも話題になり、2020年4月現在で14万人に達しています。「広告宣伝をほとんど行っていないにも関わらずここまで広まったのは、LINEという日常に浸透したプラットフォームだからこそ」と髙橋氏は分析します。
また、企業とユーザーが双方向で気軽にコミュニケーションをとれるLINEだからこそ、顧客データの収集も容易になりました。
「LINE公式アカウントでサービスの利用者を対象にアンケートを実施したところ、回答率は7割まで達しました。メールなどでは考えられないほど高い回収率です。今後は注文やアンケートなどで得られたデータを基に、ユーザーがどこで注文をしているのか、どこで商品を飲んでいるのかをデータベース化して、商圏の分析に役立てたいと考えています」
一つのブランドで多様なCXの提供へ
「TOUCH-AND-GO COFFEE」は、「オペレーションレス」(省人化)、「トレーニングレス」(採用・教育コストの圧縮)、「スペースレス」(効率化)という3つの「レス」を目指しています。LINEを活用したこのビジネスモデルは、「人手不足」という社会課題の解決の糸口にもなりそうです。
TOUCH-AND-GO COFFEEの店舗外観
「飲食業のデジタル施策は店舗を軸とした画一的なCXの提供になりがちですが、LINEを活用することでユーザー一人ひとりに合わせた最適なCXの実現が可能です。実際にTOUCH-AND-GO COFFEEは、店舗の役割を最小限に留め、デジタルで完結する世界を目指したことでユーザーごとに最適なCXを提供することができています。
今後、AIなどを活用することによって、味やラベルネームなど、そのユーザーが重視する項目をチャットボットが優先的に尋ねるということもできるかもしれません。また、ユーザーの好みに合わせて、チャットボットの言葉づかいを変えてみるのも面白いと思います。通常の店舗運営では難しいCXデザインも、LINEを活用すれば挑戦しやすくなります。今後もひとつのブランドでありながら、多様なCXを提供できる世界観を目指していきたいです」
(公開:2020年6月/文:相澤良晃)
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