株式会社ユーキャン(以下、ユーキャン)は2016年8月に旧LINE公式アカウント*を開設し、通信講座のマーケティングに活用しています。現在のLINE公式アカウントに移行した際、一時的にCPA(顧客獲得単価)が高騰しましたが、さまざまな取り組みを行うことでCPAを約40%抑制することに成功しています。その取り組み内容や成果、また今後のLINE活用について、ユーキャンの石井鈴夏氏(以下、石井氏)と、同社のマーケティング支援を行う株式会社博報堂(以下、博報堂)の土井京佑氏(以下、土井氏)に話を聞きました。
現在提供している従量課金制のLINE公式アカウントに移行しました。
- 旧LINE公式アカウントから現在のLINE公式アカウントに移行後、一時的に高騰したCPAを改善したい
- LINE公式アカウントの活用におけるゴールを再設定し、CPA・ROI(費用対効果)をより厳密に追い求めるための体制を整備
- LINE公式アカウントのメッセージ機能であるセグメント配信、カードタイプメッセージ、クリックを基にしたリターゲティング配信などを活用
- ユーザーに合わせたメッセージ配信により、移行直後と比較しCPAを約40%改善
- 今後は会員情報とユーザーのLINEアカウントとのID連携を促進させ、さらにOne to Oneに近いコミュニケーションを目指す
コアターゲットである20〜40代に支持されるLINEで、新規顧客獲得を目指す
ユーキャンは「今日より楽しく、豊かで、充実した明日へ。」という理念のもと、資格・実用・趣味に関する150以上の通信講座をお客さまにお届けしています。テキストと質問・添削からなる通信教育がサービスの中心ですが、最近はスマートフォンやタブレットを使った学習フォロー、直接生徒に会って指導を行う「スクーリング」など、さまざまな付加価値サービスも提供しています。
2016年8月にユーキャンが旧LINE公式アカウントを開設した理由は、「①テレビCMなどでマス向けの認知獲得を行い、②ユーザーによるウェブ検索後、③リスティング広告経由で申し込み」という従来のコミュニケーションのほかに、新たなチャネル開拓の必要性を感じていたためと同社でデジタル広告を担当する石井氏は話します。
「通信教育事業というサービスの性質上、年代・性別を問わず多くのお客さまにご利用いただいています。『LINE』はそのユーザー規模はもちろん、特に当社がコアターゲットとする20〜40代に支持されている点が魅力的でした。また、LINE公式アカウントを使えば年間を通して情報発信ができるようになると考えました」(石井氏)
同社のLINE公式アカウント「生涯学習のユーキャン」では、リッチメニューからユーザーの目的に合致した各種講座案内を検索することができます。ユーザーニーズを捉えたコンテンツ設計により、約790万人の友だちを獲得しています(2020年7月時点)。
申し込みページへの遷移も可能
施策のゴールを再定義し、LINE公式アカウントの機能をさらに活用
「生涯学習のユーキャン」は、2016年8月に旧LINE公式アカウントとして開設され、2019年8月に現在のLINE公式アカウントへ移行しました。現行の料金プランはメッセージの配信通数に応じた従量課金制となっており、予算やスケジュールに合わせた柔軟な活用が可能ですが、一方でメッセージの質と量の双方に気を配った運用が求められます。
「アカウント開設当初はLINE公式アカウントを活用して、サービスの認知拡大を目指していました。そのため、定期的にLINEプロモーションスタンプを活用するなどして友だちを獲得し、メッセージを月に4回、一斉配信する“マス向け施策”に力を入れてきたのです。しかし、料金体系が定額制から従量課金制に移行した後、予算を踏まえると従来のメッセージ数が維持できなくなりました。有効な活用方法が見つからないまま、1通あたりの配信単価が高騰し、同時にCPAも高く推移するようになりました」(石井氏)
そこで、パートナー企業である博報堂とともに「施策のゴールを再定義することから始めた」と石井氏は語ります。LINE公式アカウントは認知拡大のためではなく、ユーキャンに関心のあるユーザーとのOne to Oneのコミュニケーションに活用するという方針転換を図りました。
「LINE公式アカウントの運用方針変更に合わせ、メッセージ内容・配信セグメント・配信タイミングを見直しました。1回の配信ごとに、設計が適切だったかどうかを実際のお申込み数で振り返ります。それにより、CPAやROIなどの指標をより厳密に追い求める運用体制がつくられていきました」(石井氏)
定例会を月2回設けて、施策の策定や振り返りを密に行っている
One to Oneのコミュニケーションを意識したメッセージ配信では、LINE公式アカウントの各種機能を活用しながら、メッセージの質の向上を実現していきました。
例えば、「20代・女性」など年齢・性別だけでなく、Messaging APIを用いながら「特定の講座のページを見たユーザー」など、ユーザーの行動履歴を基にした詳細なセグメントを行ってメッセージを配信しています。
また、カルーセル形式で複数枚の画像を配信できるフォーマット「カードタイプメッセージ」も活用しています。これまで、ユーザーにおすすめの講座を紹介する場合、特集LP(ランディングページ)に遷移させ、LP内から任意の講座を選択してもらっていました。カードタイプメッセージを活用すれば、LINEのトーク画面上から直接講座を選択してもらえるため、コンバージョンまでのリードタイムが圧倒的に短くなったといいます。
そのほか、過去に配信したメッセージのリンクをクリックしたユーザーに対して、後追いのメッセージが配信できるリターゲティング配信も活用。ユーキャンの場合、キャンペーン期間中の配信メッセージに反応したユーザーや、特定のLPにアクセスしたユーザーに対して、適宜リターゲティングを行ってメッセージを配信しています。
これらの施策を行った結果、現在のCPAは旧LINE公式アカウントから移行した直後の2019年8月比で約40%改善しました。
「メッセージへの反応から、再定義したLINE公式アカウントの運用ゴールのように、以前よりもお客さまとOne to Oneでつながれていると実感しています。今後、CRMの一環としてLINE公式アカウントを活用することについても、道筋が見えてきました」(石井氏)
LINEが「教育プラットフォーム」になる未来
一連の取り組みの結果、ユーキャンがLINE公式アカウントのCPAを改善できたことについて、同社のデジタルマーケティング施策を支援する博報堂の土井氏は次のように語ります。
「コンバージョンに特化したアカウント運用を行うと、取り組みの数値化が前提となります。数値があれば代理店として次のアクションを提案しやすいのはもちろん、ユーキャンさまの意思決定の早さにつながります。それが現在の成果を生み出していると分析しています」(土井氏)
LINE公式アカウントを活用した取り組みの展望について、「よりきめ細やかなOne to Oneコミュニケーションに寄与したい」と石井氏は話します。
「同じ“医療事務”の講座にご興味があっても、費用を気にされる方もいれば学習内容を気にされる方もいる。あるいは何か学んでみたいけれど、具体的に何を始めるか決めかねている方もいる。さまざまなニーズにフィットした情報発信や最適な講座のレコメンドにより、お客さまに納得してご受講いただくことはもちろん、今後は受講生とのコミュニケーションにも活用の幅を広げて、学習体験の価値をさらに感じていただける仕掛けをLINEで提供できればと考えています」(石井氏)
また、ユーキャンは受講生の効果的な学習を助けるサポートサイトとして「学びオンライン プラス」を運用しています。同サイト上では、学習スケジュール管理やテスト機能、講師への質問機能が実装されており、土井氏は「LINE公式アカウントとの連携を深めることで、より利便性が高められる」と話します。
「ユーキャンの会員情報と友だちになったユーザーのLINEアカウントを連携できれば、LINEをDMP(Data Management Platform)として活用することも可能です。実現はまだ先になるかもしれませんが、LINEというプラットフォームをユーキャンさまの事業に即した形で提案し、マーケティング支援を行いたいと考えています」(土井氏)
(公開:2020年7月/取材・文:安田博勇、写真:山﨑美津留)
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