東京都江戸川区(以下、江戸川区)は2020年1月13日に行われた成人式の記念品として「LINEスタンプ」を配付しました。自治体が成人式の記念品として「LINEスタンプ」を配付するのは全国初となる試みで、新聞でも取り上げられるなど大きな注目を集めました。
今回、江戸川区が活用したのは「LINEプロモーションスタンプ」のプランの一つ「CPDスタンプ」です。「CPDスタンプ」はダウンロード数の上限を設定することができ、従量課金かつ希望ダウンロード数が指定可能な新しいプランです。CPDスタンプを活用した目的と取り組みについて、江戸川区の上坂かおり氏(以下、上坂氏)と、運用をサポートした株式会社デジタルガレージ マーケティングテクノロジーカンパニー(以下、デジタルガレージ)の林竜宏氏(以下、林氏)に話を伺いました。
- SNSの台頭による若年層の手紙離れが進む中で、気軽に感謝の気持ちを伝えられるツールを探したい
- 若年層に江戸川区への親近感を抱いてもらいたい
- 「CPDスタンプ」を活用し、成人式会場で来場者に「LINEスタンプ」を配付
- 令和2年成人式専用のLINE公式アカウントを開設し、成人式や区の情報を配信
- 成人式の当日中にLINEスタンプのダウンロード数3,144件、1週間後の1月20日には計1万1,335件のダウンロード数を確認
「LINEプロモーションスタンプ」活用のきっかけは、若年層の“手紙離れ”
江戸川区ではこれまで、成人式の記念品として絵葉書と切手のセットを配付していました。しかし、SNSなどの普及によって“手紙離れ”が進み、絵葉書の代わりとなるツールを探していたといいます。
「新成人の方には『これまでお世話になった方々に、感謝の気持ちを伝えてもらいたい』との思いから毎年、成人式に絵葉書を贈っていましたが、SNSなどの台頭によって若年層の手紙離れが進んでいました。新成人が気軽に感謝の気持ちを送り合えるツールはないかと模索していた時、LINEプロモーションスタンプに従量課金制のプランがあると聞き、絵葉書の代わりにLINEスタンプを贈ることを思いつきました」(上坂氏)
2019年まで記念品として配付していた絵葉書
江戸川区区長・斉藤猛氏の快諾もあり、2019年10月に正式にCPDスタンプの活用が決まり、制作に向けての準備が始まります。「ちょうどLINEがCPDスタンプの提供を開始した時期と重なったことも幸運だった」と上坂氏は当時を振り返ります。
「従来のLINEプロモーションスタンプは出稿に最低でも1,000万円がかかり、興味はあったものの実施に踏み切れずにいました。CPDスタンプはダウンロード数に応じて価格が決まる従量課金制で、予算や目的に合わせて柔軟に活用ができる点に魅力を感じました」(上坂氏)
江戸川区 文化共育部 健全育成課 課長 上坂 かおり氏
LINEスタンプを活用して区への親近感を抱いてもらいたい
LINEスタンプの制作は、成人式を運営する健全育成課の職員4名と広報課の職員1名の計5名が担当しました。スタンプのクリエイティブでは、親近感を抱いてもらいたいと願いを込め、江戸川区のオリジナルキャラクターを起用したほか、区長をイメージした新たなキャラクターを制作。彼らが新成人を祝う様子をスタンプにしました。
「クリエイティブ制作で苦労したのは、作者も制作された年代も異なる複数のキャラクターたちを、同様の世界観で描くことでした。それぞれのキャラクターの個性を残しつつ、メッセージのフォントやイラストのトーンを揃えることで統一感を出しました。クリエイティブに添えたメッセージは新成人だけでなく、ご家族も使うことのできるように工夫しました」(上坂氏)
記念品としてLINEスタンプを配付するにあたり、主に区の広報誌とホームページ上で告知を行い、成人式当日には式次第にQRコードを掲載しました。読み込むと江戸川区の成人式専用のLINE公式アカウントが表示され、友だちになるとスタンプがダウンロードできる仕組みです。
成人式当日に配付した式次第にLINEスタンプがダウンロードできるQRコードを掲載
成人式の参加者を超えるダウンロード数を達成し、他自治体からも話題に
成人式の会場に訪れた新成人は4,400人でしたが、当日中に3,144件ものダウンロード数が、さらに成人式から1週間後の1月20日には、1万1,335件のダウンロード数を記録しています。
「今回の取り組みでは江戸川区さまと密に連携することで予想以上の成果を得ることができました。大きな反響をいただけた理由の一つとして、当初の狙い通り、新成人の方からご家族など、周りの方に広まって活用してもらえたことが考えられます。これまで行ってきた取り組みと比較しても上々の成果を残すことができました」(林氏)
株式会社デジタルガレージ マーケティングテクノロジーカンパニー
CRMストラテジー本部 クロスコミュニケーション部 グループマネージャー 林 竜宏氏
LINEスタンプの運用に携わった職員の一人は、「これほどスタンプの制作が簡単だとは思わなかった」と振り返ります。また、上坂氏は「予想を超えて多くの方にダウンロードいただくことができ、素直に嬉しいです」と笑顔を見せます。
「実際にLINEスタンプを使ってメッセージをやり取りされた回数は、ダウンロード数の数倍になると思います。新成人の方がお子さんだった頃の15~20年前に制作したキャラクターもスタンプとして起用しているので、懐かしく感じられたご家族の方もいらっしゃるのではないでしょうか」(上坂氏)
今回の取り組みは読売新聞や都内の自治体に配られる都政新報でも紹介され、他自治体の関係者からも大きな反響が寄せられました。上坂氏も「世の中のニーズを汲むことができた」と手応えを感じています。
目的に合わせてフレキシブルにLINEを活用したい
江戸川区はLINEプロモーションスタンプの活用にあたって、区として初めてLINE公式アカウントを開設しました。
成人式用に開設したLINE公式アカウントでは、デジタルガレージが提供するメッセージ配信プラットフォーム「CONNECT BAYⓇ」を活用し、リッチメニューをタブ化して「成人式情報」と「江戸川区情報」を配信しました。「成人式情報」では、当日会場で催されるコンテンツの案内や江戸川区のグルメ情報、江戸川区のキャラクター紹介ページへのリンクを設置しています。一方の「江戸川区情報」では、区の公式SNSなどへ誘導するリンクを置き、江戸川区が発信する情報とユーザーをつなぐ窓口となる仕組みをつくりました。
LINEで配信したメッセージのクリエイティブでは絵葉書のデザインを踏襲しつつ、
リッチメニューを活用して成人式や区の情報を発信した
あくまで成人式用のLINE公式アカウントのため、時期を見て一旦運用を停止しますが、上坂氏はLINE公式アカウント活用について、今後の展望を語ります。
「実際にLINE公式アカウントを開設してみて、想像していたよりも簡単に運用できることが分かりました。今後は他の健全育成事業への活用の検討や、今回同様、イベント開催時にもCPDスタンプと組み合わせてLINE公式アカウントを開設するなど、フレキシブルな活用を検討してみたいと思います」(上坂氏)
(写真左から)LINEスタンプの制作を担当された江戸川区 文化共育部 健全育成課の皆さんと、デジタルガレージ 林氏
(公開:2020年2月/取材・文:相澤良晃、写真:中村宗徳)
※本記事内の数値や画像、役職などの情報はすべて取材時点のものです