「アサヒスーパードライ」を中心にアルコール飲料を製造・販売するアサヒビール株式会社(以下、アサヒビール)は、2017年2月にLINE公式アカウントの運用を開始。その後、2017年8月よりLINEで応募する販促プロモーションを実施し、その際に取得したデータをCRM(顧客管理)に活用しています。LINEの法人向けサービスの運用方法やAI(機械学習)を活用したマーケティング戦略などについて、同社デジタルマーケティング部の田村真基氏に話を聞きました。
- キャンペーンで得られるユーザーデータをCRMに活用して、お客さまに寄り添ったコミュニケーションを行いながら、LTVを向上させたい
- 「LINEで応募」を活用して、「アサヒスーパードライ」でプレゼントキャンペーンを実施
- プレゼントの応募条件として、性別や年齢などのアンケート回答を必須にしてユーザーデータを取得
- 応募状況のデータ分析をリアルタイムで行い、LINE公式アカウントでユーザーに追加アプローチすることでキャンペーンの応募を促進
- 応募を促進させるリマインドメッセージや、ユーザーの属性別にクリエイティブを出し分けてアプローチした結果、キャンペーン応募数の底上げや店頭における販売数アップにつながった
CRM戦略の“柱”に据えるためにLINE公式アカウントの運用を開始
アサヒビールは長年、オフラインを中心に各種キャンペーンを実施してきました。代表的なものが、商品に貼られたシールを集めてハガキで応募するプレゼントキャンペーンです。しかし、オフラインの施策はユーザーとの接点を維持することが難しい上、キャンペーンごとに応募者の情報を破棄するためユーザーデータが蓄積されず、CRM戦略に生かせないという課題がありました。
そこで、2017年2月にLINE公式アカウントを開設。以降、酒類業界として初めてLINEを使ったコンビニでのサンプリングキャンペーンや、対象商品の購入レシートをスマホで撮影して参加するポイントプログラムなどの施策を実施し、好評を博してきました。現在、同社のLINE公式アカウントの友だち数は1,100万人を超えています(2021年6月時点)。
「LINEは8,800万人(2021年3月末時点)の月間利用者数を誇り、弊社のデジタルマーケティング戦略において必要不可欠なプラットフォームです。また、LINEを選んだ理由として、『IDの堅牢性』が挙げられます。ほかのSNSと異なり、LINEは端末1台につきIDを1つしか取得できません。これが文字通りユーザーの識別子となるため、One to Oneコミュニケーションを行うのに最適なツールだと考えています」
LINE公式アカウントの導入前、社内では「LINEは未成年者の利用が多いのではないか」と懸念の声もあったそうです。しかし、LINEユーザーの約9割が20歳以上であるという社内認知も徐々に高まり、LINEを活用した販促プロモーションが安定した成果をあげてきたことから、現在、アサヒビールではOne to Oneマーケティング戦略の中心にLINEを据え、LINEのIDをCRMに活用しています。
リアルタイムで応募状況を把握し、対策につなげられる「LINEで応募」
同社は「アサヒスーパードライ」では初となる、「LINEで応募」によるプレゼントキャンペーンを2021年1月に実施しました。商品に貼付されたシールのQRコードを読み込んでポイントを貯めると、タレントが出演するWeb CM撮影の観覧権や、アサヒスーパードライのオリジナルタンブラーなど各種プレゼントの抽選に応募が可能となります。
「応募条件として、性別や年齢などのアンケート回答を必須にすることで、キャンペーンに参加したユーザーの属性を把握することができました。また、キャンペーン初日から応募状況のデータを分析して各担当と即座に情報共有し、参加ユーザーの増加を目指した施策を展開することができました」
上図の縦軸は「キャンペーンの応募数」、横軸は「日付」です。毎週末に応募数が増加していることから、そのタイミングに合わせて応募を促すメッセージをアサヒビールのLINE公式アカウントで配信。また、プレゼントの応募締め切りとなる2021年2月末には、応募忘れを防ぐためのリマインドメッセージを配信しました。その結果、「締め切りに合わせて、店頭における商品の販売数が伸びた」と田村氏は振り返ります。
「従来はキャンペーン終了後にハガキの応募総数を確認するだけでしたが、「LINEで応募」ならリアルタイムでデータを把握し、応募状況に合わせて柔軟に手を打てます。
実際、今回のキャンペーンに参加しているユーザーデータを分析すると、プレゼントのコースによってユーザーの属性が異なることがわかりました。そのため、属性に合わせてプレゼントの訴求内容を変えてメッセージを出し分けたところクリエイティブへの反応が良かったため、その後は属性に合わせたアプローチを継続しました。その結果、キャンペーンの応募数が底上げされたと考えています」
このような対策は、パートナー企業の力を借りてデータ分析からメッセージの配信まで、わずか1~2日間で行ったといいます。また、今回のキャンペーンに限らず、アサヒビールは量販店、料飲店、ECなどあらゆるタッチポイント(顧客接点)の入り口にLINEを活用して、実売になるべく近いところにいるユーザーデータの蓄積を進めています。
「キャンペーンの訴求を行う際は、ユーザーのステータスを当該キャンペーンの参加経験の有無で分けます。さらに、参加したことがある場合は初めて応募したのか、いつも応募しているのか、休眠状態だったのかなどを細かくセグメントし、適切にメッセージを出し分けることで販促プロモーションを成功に導けます。
また、そうしたメッセージの出し分けを行う際に、AIを利用した試験的な配信も行っています。1,100万人の友だちを擁する弊社アカウントの規模になると、誰にどんなメッセージを送るべきか判断に迷うこともあります。人間の経験則を補うためにAIによる効果的なメッセージ配信を行いながら、LINEを活用して、ユーザーとより良いコミュニケーションを構築していくことがCRMには大切だと考えています」
商品売上アップを目指して、LINEを核としたさらなる販促・OMOを実現
導入から4年が経過した現在、「LINEがキャンペーンの実施やCRMに適しているという意識が、社内で根付いたように感じる」と語る田村氏。今後は量販店や料飲店と連携して、ユーザーが来店時にLINEでメッセージやクーポンを受信できるビーコン活用にも大きな可能性があるといいます。
「弊社は商品売上をKPIとしてマーケティングを行っているので、売り場にいるユーザーに直接情報を届けて購買を訴求できるビーコンは理想的なツールです。LINEを核として、最適なユーザーに最適な情報を届ける施策を実現できればと思います」
LINEを活用したマーケティング戦略の展望について、田村氏は「KPIとしてはLTV(顧客生涯価値)も重要」と明言します。
「競合も多く存在するアルコール飲料のメーカーにとって、お客さまに自社の商品を選び続けてもらうことが何より大切です。LTVを重視する上で、特定のキャンペーンの成果に一喜一憂するのでなく、常にお客さまに寄り添ったコミュニケーションを続け、長いスパンでLINEの運用効果を高めていきたいと思います」
(公開:2021年6月/取材・文:相澤良晃、写真:中村宗徳)
※本記事内の数値や画像、役職などの情報はすべて取材時点のものです