デジタル広告はいつから"不健全"に?
— 急激に広告の透明性が叫ばれるようになった昨今。2018年9月に放送された「クローズアップ現代・追跡!ネット広告の"闇"」は、広告業界のみならず世間からも大きな反響を集めた。
Integral Ad Science Japan株式会社 エバンジェリスト 山口 武 氏
IAS 山口氏(以下、山口氏):
「ネット広告の闇」については、負の部分がクローズアップされ過ぎている印象があります。そもそも、海外では2011年ごろからアドベリフィケーションの概念が始まりました。日本でも2012年ごろから徐々に導入されていましたが、最初のころはあまり注目されていなかったように記憶しています。日本でアドベリフィケーションが普及しだしたのは、2017、8年くらいから。広告のデジタルシフトが進み、ネット広告の価値を計測する重要性に気が付いてきたところに、一斉にメディアが取り上げた。
日本オラクル株式会社 オラクルデータクラウド シニアアカウントマネージャー 谷野 百合佳 氏
日本オラクル株式会社 谷野氏(以下、谷野氏):
オラクルデータクラウドのアドベリフィケーションソリューションであるMOATにおける指標には「ブランドセーフティ」「IVT(Invalid Traffic:無効トラフィック率)」「ビューアビリティ」などがあります。中でも日本は、アドフラウドなども含む無効トラフィック率がグローバルと比較して高い傾向があります。時期にもよりますがグローバルのITV率が5%前後なのに対し、日本は8〜9%と2倍近くあるときもあります。まだまだ顕在化していないだけで、日本のネット広告の闇は今我々が思っている以上に大きいのかもしれません。
山口氏:
ブランドセーフティに比べ、アドフラウドやビューアビリティへの危機感があまり高くない。「CPCで購入しているので問題ない」という、先入観があるのかもしれない。ホワイトリスト/ブラックリスト方式を採る広告主も多いのが現状ですが、その弊害として海外と比べ日本だけ特出してビューアビリティとアドフラウドが悪化している傾向もあります。
ヤフー株式会社 一条(以下、一条):
アドフラウドが年々狡猾になり、発覚しにくい構造は課題だと考えていました。悪の媒介みたいな見方をされたことも......。「ネット広告の闇」問題は、痛みを伴ってでも良くしていこう、という転機になった出来事だったと思います。
ヤフー株式会社MS統括本部トラスト&セーフティ本部長 一条 裕仁
山口氏:
計測できる媒体が限られてしまうと、どんなにアドベリフィケーションの重要性を訴えても効果がない。媒体として日本最大級のYahoo! JAPANが計測を受け入れた意味は大きかったと思います。今年の4月からは、アプリ面での計測も可能になった。アドベリフィケーション計測が当たり前のものになるため、Yahoo! JAPANの受け入れは重要な第一歩だと思います。
健全化への取り組みの「今」
— 過去に散見された広告業界の「闇」に対して、どのような取り組みを行ったのか?
谷野氏:
闇の部分においてはアドフラウド対策およびブランドセーフティ対策を集中して取り組んできています。アドフラウドが近年ますます精巧化し組織化される中、こうしたトラフィックからお客様の貴重な広告予算を守るのは我々の重要な役目です。我々はサイバー攻撃からデータを守るオラクルのセキュリティ技術を活かし、より精緻にアドフラウド判定を行いそれをリアルタイムでレポーティングしています。また、ページレベルで文脈を読み取ることができるので、例えば飛行機事故のページには広告は出したくないけれども、飛行機での楽しい時間の過ごし方のページには広告を出したい、といったニーズにも答えられるように、ユーザーのマインドセットに寄り添った広告コントロールを行うことで広告主の安心安全を担保できるような仕組みを構築しています。
一条:
インターネットユーザー、広告主、提携パートナーなど、関係するすべての方に満足いただくために、IAS社、オラクル社等の協力のもと、透明性やクオリティ改善などのさまざまな取り組みを進めてきました。その集大成として、2019年5月に「広告品質のダイヤモンドの取り組み」を策定しました。健全化は自社だけで目指すのではく、第三者の目や知見も入れて目指すべきものだと考えます。
Yahoo! JAPANは、日本のインターネット広告業界が抱えるアドフラウドやブランドセーフティなどの課題に向き合い、広告品質に関するグローバルスタンダードを参考に、 独自の"広告品質における3つの価値と6つの対策項目(広告品質のダイヤモンド)"を定義しています。
日本の広告主は、アドベリフィケーションを守りの「対策」として捉えている向が強いです。根本的な改革にはこの意識を広告運用効率化のための「施策」として捉えるよう、変えないといけないと考えています。広告の価値を軸にしたKPIを立て、それに対して何%達成したか、という意識を持ってアドベリフィケーションを活用していただきたい。CPCをただ安く抑えるのではなく、マーケティングとして本質的なゴールを考えた場合、それを達成するためにはViewable impressions(ビューアブルインプレッション:広告の50%以上が1秒以上見られた)はどれだけ必要で、その中で意味のある、安全かつ適切な環境でのViewはどれだけあるか、まで意識してほしい。例えば、自動車メーカーが「自動車関連コンテンツ」に広告を出すとして、家族連れの楽しいドライブの記事と、悲惨な自動車事故の記事、どちらが望ましいか。新しい「ブランド適合性」の概念では、こう言った同じコンテンツの中での「ネガティブ」、「ポジティブ」な「感情」まで分析し、効率化に繋げることができる。オフラインの出向先を選ぶ時と同じように、広告が「どこに出て」、「誰に」、「どのように」「見られているか」考慮する必要がある。
一条:
「安かろう悪かろう」で構わないというニーズがある限り、不正行為がマネタイズできてしまう。広告主、代理店、ソリューションプロバイダ、メディアという垣根を超え、広告業界全体で足並みを揃えていかなければならない問題です。
デジタル広告の今後
— 今後、広告業界やインターネットユーザーはどう変わっていくのか? どう変えていくべきなのか?
谷野氏:
安心安全志向が高まってきた結果、広告予算はよりソーシャル系メディアに寄ってくるようになりました。ソーシャルは閉じられた世界で、フラウド等の脅威が起こりにくい世界だと思われているからです。こうした傾向から見るように、現在広告主はまだクリックやコンバージョン等のパフォーマンスを最重要視する傾向にありますが、いずれ安全安心志向がますます高まり、安全安心を担保できるメディアでないと出稿を行わないという意識が高まってくるのではないかと思われます。そうしないと自社の売上は上がったけれども評判は下がってしまったというパラドックスが起こりかねないからです。アドフラウドの多くはユーザーのセッションを乗っ取って行われるので、ユーザーも安全な場所でないと集まれないはずです。今後はパフォーマンスよりも安心安全を生み出せるメディアやプラットフォームが生き残り、そういう場所に広告や人が集まってくるのだと思います。
山口氏:
広告予算の配分において、トラディショナルな広告より、デジタル広告へのシフトがさらに進んでいくと考えています。そうなるとデジタルでもどんどんコンテンツのクオリティが重要になり、プロが作ったコンテンツに広告予算が寄っていくのではないでしょうか。クオリティと広告効果の関係性に関しては、これまで以上に啓蒙が大切になって来ます。今も、根本のところからプランニングするお手伝いをしているところです。
一条:
これまでの取り組みにより、アドフラウド対策では一定の成果を実感しています。今後はさらに進んで、ビューアブル対策、ブランドセーフティ対策にまで踏み込んでいければと考えています。プラットフォームとして、今まで以上にIAS社、オラクル社を始めとするソリューションプロバイダとの連携を深め、三位一体で業界の健全化を推し進めていきたいですね。
— 新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大、いわゆる「コロナ禍」の中、Webアクセス増に伴いアドフラウドが急増しているといもいう。このような状況にいかに対応し、デジタル広告の健全化を進めていくべきなのか。今問われているのかもしれない。
- 企業・団体名
- Integral Ad Science Japan株式会社
- 所在地
- 東京都
- 従業員数
- 700名
- 事業概要
- 2009年設立。米国ニューヨークに本社を置き、13か国の17のオフィスでグローバルにデジタル広告検証事業を展開。高品質の広告メディアを推進するテクノロジーを提供する。
- 企業・団体名
- 日本オラクル株式会社 Oracle Data Cloud(外部リンク)
- 所在地
- 東京都
- 従業員数
- −
- 事業概要
- オラクルデータクラウドではマーケティング担当者がデータを利用し、消費者の関心を収集し、キャンペーンの成果を上げることを支援。オーディエンス、テキスト解析、アドベリフィケーションにわたるこれらのソリューションは、世界の上位広告事業者200社中199社に採用され、有力メディア・プラットフォーム各種にわたり、世界100カ国以上で利用されている。オーディエンス・プランニングから入札前のブランド・セーフティ、コンテキストに応じた関連性、ビューアビリティの検証、不正防止、ROI測定に至るマーケティングのあらゆる段階で求められるデータとツールをマーケティング担当者に提供する。
※当記事は2020年4月の情報をもとに構成しています。掲載内容、所属団体、部署名、役職名等は、取材時のものです。
※新型コロナウイルス感染防止のため、リモートにて実施しています。
※ファシリテータ/囿山友佑(ヤフー株式会社)、文/池亀久美子(ヤフー株式会社)
※アドベリフィケーション測定ツールの導入に関しては、Yahoo! JAPANの営業担当までお問い合わせください。