LINE公式アカウント進化論――「工数削減」という課題解決と「パーソナライズ」の重要性
LINE公式アカウントの機能拡張ツールであるセグメント配信ツール「WazzUp」と、完全成果報酬型のマーケティングチャットボットサービス「Penglue」は、それぞれ特長が異なるものの「個人に最適化(パーソナライズ)されたコミュニケーションを実現する」という共通点を持つ。
両サービスの開発・運営元であり、「LINE Frontliner」としても活躍する株式会社ファナティックの野田大介氏(以下、野田氏)と株式会社アイトリガーの奥川哲史氏(以下、奥川氏)に、中堅・中小企業(SMB)がLINE公式アカウントで行うべきユーザーコミュニケーションについて話を聞く。
株式会社ファナティック 代表取締役 野田大介 氏
ファッション誌の編集、スニーカーブランドの生産管理、アパレルブランドでの通販責任者を経て、2016年に株式会社ファナティック設立。大手アパレル通販のリニューアル支援や売上改善の傍ら、2017年にLINE公式アカウントのセグメント配信ツール「ワズアップ!」を開発。「安価でサイト側の改修も必要なく、運用の手間もなし」というツールの特徴を活かして、圧倒的効果を誇るLINEのセグメント配信を中小規模の事業者にも提供中
株式会社アイトリガー 代表取締役社長 奥川哲史 氏
ネットフロンティア(現:アイトリガー)に2009年新卒入社。ダイレクトレスポンス領域のクライアントを中心に、広告のCPAを下げるだけではなく、事業を成長させるためのデジタルマーケティング支援(KPI設定・プランニング・施策の実行)に取り組む。2017年にチャットボット広告「Penglue」を立ち上げ、LINE公式アカウントを活用した新規獲得・LTV向上の支援を行っている。2019年10月に代表取締役社長に就任。
手間・工数を削減するための施策が肝心
――企業各社、SNSやさまざまなツールを導入していますが、LINE公式アカウントはどのような位置づけで活用されていることが多いでしょうか?
奥川:EC事業者の場合、LINE公式アカウントは「既存のお客さまとのコミュニケーションのため」に活用しているケースがほとんどです。新規のお客さまとの接触機会を増やすためにはInstagramを活用するなど、使い分けている印象です。
野田:私も同じ印象です。やはりInstagramの“取っつきやすさ”は、ECのお客さまにとって魅力的のようです。ただ、成果を上げるという点では、LINE公式アカウントに軍配が上がります。LINE@の時代からSMB企業に対して導入支援を行ってきましたが、適切な配信さえ行えば、確実に成果を出すことができます。
株式会社ファナティック 代表取締役 野田 大介 氏
――SMB企業がLINE公式アカウントを活用する際、どのような課題に直面することが多いでしょうか?それぞれの経験を踏まえて教えてください。
野田:ECの顧客と接する機会が多いのですが、日頃の店舗運営が多忙なため、一定の手間・工数が必要なLINE公式アカウントの場合、「思うように配信ができない」という声を聞くことがあります。同様の背景から、「何を配信すればよいかわからない」「友だち数が伸びない」といった悩みもよく耳にします。
奥川:月に1〜2回の頻度でセミナーを開いていますが、アンケート結果を見てもLINE公式アカウントを導入している企業は非常に多い印象です。しかし、野田さんが言っていたような理由から、LINE公式アカウントに対する運用リソースの優先度が下がってしまい、結果として思うような成果が得られていない企業もあります。
LINE公式アカウントの機能拡張ツール「WazzUp!」「Penglue」
――手間・工数を削減できるツールとして、ファナティックが開発・運営されているサービス「WazzUp!」について教えてください。
野田:株式会社ファナティックでは、EC事業者に向けてLINEのセグメント配信ツール「WazzUp!」を開発・運営しています。WazzUp!は開発不要でセグメント別(ブランド別・アイテム別・性別・店舗別・希望する情報別など)の自動配信が行えるほか、新着情報、カート落ち・カゴ落ち、再入荷のお知らせなどに関する自動配信にも対応しています。
――どのような導入事例がありますか?
野田:カート落ちのリマインドや再入荷のお知らせに注力している家具・インテリア雑貨のFrancfranc(フランフラン)さまでは、導入後「WazzUp!経由のCVRがメール&アプリの5倍以上」という成果が出ています。SNS経由の売上についてもコロナ禍という背景があるとはいえ前年比50倍以上に達し、その多くがLINE公式アカウント経由でした。
――一方、「Penglue」はどのようなサービスでしょうか?
奥川:そもそも、株式会社アイトリガーは運用型広告の運用支援やインハウス化支援を行っている会社なのですが、それとは別にLINEを活用したマーケティングチャットボットサービスとして「Penglue」を開発・運営しています。
Penglueではまず、ユーザーがLINE公式アカウントから離脱するタイミングをリアルタイムで判別し、ポップアップバナーを表示させることによって離脱を防止。次にチャットボットによる接客でコンバージョン創出を自動化しています。初期費用・月額費用0円でご利用いただける「完全成果報酬型(毎月の請求額上限50万円)」が大きな特徴で、EC・実店舗を運営する多くの企業にご利用いただいています。
――「Penglue」にはどのような導入事例がありますか?
奥川:例えば、ドッグフードのD2Cブランド「レガリエ」を運営するオネストフード株式会社では、LINE公式アカウント内に離脱防止バナーとして「ドッグフード診断」を表示させ、簡単なチャットコミュニケーションを経てドッグフードを選ぶ際の判断基準などを指南した後、レガリエの特定商品をPRするようなシナリオを組んでいます。チャット診断で細かく商品をセグメントできる仕組みではありませんが、他の広告経由と比較し、Penglue経由の定期注文率は2.7倍に増加しました。
パーソナライズ化の第一歩は「ある程度の粒度で大丈夫」
――「WazzUp!」「Penglue」は工数削減とともに、ユーザーに対する配信情報の最適化――。いわばパーソナライズにも近い体験を実現できるツールだと思います。LINE公式アカウントにおけるパーソナライズの重要性という点はどのように考えていますか?
奥川:広告領域で考えてしまうと、過度にパーソナライズされた広告は「ちょっと気持ち悪い」と敬遠されることが多く、我々にとってもなかなか踏み込めない領域ではありました。しかし、LINE公式アカウントはそもそもユーザーが興味を持って「友だちとして追加する」ことでコミュニケーションが始まり、ユーザーが自身で入力したメッセージを元にパーソナライズするので、敬遠されることは少ないと考えています。
もちろん、あまりしつこいメッセージ配信はブロック率の増加につながるかもしれませんが、ユーザーの個性・ニーズに合わせて最適で有益な情報を届けることで、企業の成果向上につながっていくはずです。
野田:SMB企業の方へお伝えしたい留意点でもあるのですが、パーソナライズは「一人ひとりに対して」と考えがちです。もちろん、それが理想ではありますが、実際のところ、パーソナライズはある程度大きな“かたまり”で考えても問題ないと思います。実はそのくらいの粒度で考えたほうが、成果が出やすかったりもします。
その点、LINE公式アカウントは一人ひとりに対しても、ある程度の粒度でもパーソナライズでのコミュニケーション施策が展開しやすく、WazzUp!のセグメント配信もそれが実現できるツールです。
――ほか、SMB企業がLINE公式アカウントで成果を出すために重要な点は?
野田:参画しているLINE Frontlinerでは、LINE公式アカウントの運用情報を「note」で定期配信しているので、まずはそちらをお読みいただきたいです(笑)。初期設定を行っていないケースが多く見られるので、「プロフィール設定でステータスメッセージを入れて、検索で発見してもらいやすくする」など、一度設定すれば効果が出るというような方法も紹介しています。
奥川:最近、友だち追加画面の変更によりカスタマイズの幅が広がり、見せ方が工夫できるようになっています。しかし、まだまだデフォルト設定のアカウントが多いため、差別化できる要素だと思います。Penglueで計測しているデータを見ると、バナーなどからLINE公式アカウントに誘導しても、友だち追加してもらえる確率はだいたい25%~35%なので、確実に「友だち追加」を促す工夫を凝らすことが重要になってきます。
新メンバーを迎え拡大期を迎える認定講師「LINE Frontliner」
――今回、奥川さんが新たなLINE Frontlinerとして参画されました。野田さんはすでにLINE Frontlinerとして活用されていますが、これまでの総括、今後の展望について教えてください。
野田:これまで講演やSNSを通じ、LINE公式アカウントについて、あるいはMessaging APIを活用したコミュニケーション設計、CRM施策などについて発信してきました。しかし、率直に言って「LINE公式アカウント=メッセンジャーツール」という認識がまだまだ一般的だと痛感しています。本当はカスタム次第でさまざまなことが可能になるのですが、それがまだ認知されていません。
SMB企業にとって、LINE公式アカウントの開設がいかにビジネスにとって重要なのか、そしてどんな可能性を秘めているのか、それを伝えていくのがLINE Frontlinerとしての使命だと思っています。
奥川:LINE公式アカウントには大きなポテンシャルがあるのに、運用の面では誤解されている部分があると常々感じていました。そうした誤解を正すというわけではありませんが、LINEについて説明する頻度が多くなるにつれ、もっと大きな、公の機会で発言したいと思うようになり、LINE Frontlinerに参画させていただきました。
私自身も野田さんのような他のLINE Frontlinerから学ぶ部分も多いと期待しているので、自己研鑽に励むとともに、自身でもLINEの魅力を伝えていきたいと考えています。
(取材・文:安田博、写真:小川孝行)
- 関連タグ:
- #LINE公式アカウント #インタビュー
この情報は役に立ちましたか?