国内メーカーのDX推進に寄与するLINEのサービス活用と可能性
新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大から約1年、多くの企業が活動の転換や変革を迫られ、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進している。その一方で、DXの端緒をつかめず苦慮している国内メーカーも少なくない。そこで、LINE Frontlinerとして活動するDOTZ株式会社(以下、DOTZ)Co-Founder&取締役CMOの稲益仁氏と、花王株式会社(以下、花王)DX戦略推進センター カスタマ―サクセス部兼Originals&Co Founder&CEOの中根志功氏に、メーカーがLINEのサービスで実現できる業務のデジタル化やDX推進のポイントについて話を聞いた。
DOTZ株式会社 Co-Founder&取締役CMO兼株式会社I-ne EC販売企画部 部長 稲益仁氏
2006年にサイバーエージェントに入社し、全国の著名な通販企業を中心に担当。その後、LTVを最大化するためのCRM専門組織を設立し、局長に就任。多くのCRM施策を実行するなかで、LINEビジネスコネクト(現LINE公式アカウント)と出会い、その驚異的効果からCRMソリューションをLINEへ一本化した。LINE専門部署を設立し、広告取扱高を3年で10倍まで成長させた。2019年12月に同社を退職。2020年10月に「LINE Frontliner」認定。2020年11月にLINE専門代理店となるDOTZ株式会社を設立。
花王株式会社 DX戦略推進センター カスタマーサクセス部兼Originals&Co Founder&CEO中根志功氏
2001年カネボウ株式会社入社。2014年DMP導入/運用。2016年花王株式会社DMC出向。横断型CRMプロジェクト発足(花王(株)/(株)カネボウ化粧品/花王Gカスターマーケティング(株))同年8月カネボウ化粧品 『スマイルコネクト』店頭連携アプリとスマホで肌水分が計れる『肌水分センサーデバイス』を開発/導入。2017年1月全国アプリサービス運用開始。O2O_CRMアプリ開発、PM担当。2018年Originals&Co設立 DXコンサルティング、DX戦略マップ策定、オリジナルのCX開発支援。2020年KANEBO、LUNASOL、SENSAIブランド、2021年estブランドLINEミニアプリ開発によるブランドCXM運用に従事。2021年5月に「LINE Frontliner」認定。
メーカーにとって「DXが推進された状態」とは?
――稲益さんは長年、デジタルマーケティング業界の第一線で活躍され、2020年10月からLINE Frontlinerとなりました。この半年、どんな活動をしてきましたか?
稲益: LINE for Business公式noteの記事を書いたり、オンラインセミナーで講師をさせていただいたりと、LINEを活用した効果的なマーケティングを広めるために活動してきました。それらと並行して、2020年11月にLINE専門の広告代理店「DOTZ」を立ち上げ、外資系ブランドや国内紳士服の大手メーカー、消費財メーカー、医薬品関連企業など、多くの企業のマーケティング戦略をサポートしています。
株式会社I-ne EC販売企画部 部長 稲益仁氏
――中根さんは2021年5月、新たにLINE Frontlinerになりました。経緯について教えてください。
中根:実はごく最近まで、LINE Frontlinerのことを詳しく知りませんでした。2021年に入ってからSNS上でLINE Frontliner の野尻猛さんが、さまざまな企業にLINEの活用法をアドバイスしているのを知って、自分もデジタルマーケティングで課題を抱える企業の役に立ちたいと考えるようになりました。
私が所属する花王グループのカネボウ化粧品では、2020年7月にローンチされた「LINEミニアプリ」を、すでに4つの商品ブランドで運用しています。そこで得た知見を生かしながら、マーケティングにおける課題解決やDX戦略策定などのサポートができればと考えています。
Originals&Co Founder&CEO中根志功氏
――では、今回のテーマであるDXについてお二人の考えを聞かせてください。そもそもメーカーにとって「DXが推進された」とは、どういった状態なのでしょうか?
稲益:メーカーといってもその事業形態や規模、製品もさまざまなので、ひとくくりに定義するのは難しいです。ただ、カネボウさんのように卸だけでなく直営店や自社ECなど、多様な販売チャネルを持っているメーカーについていえば、「どの販売チャネルでもユーザーに最適なサービス提供ができる状態」を指すのではないかと思います。
そのためには、各チャネルで取得した購買データを統合し、CRMに活用することが重要です。LINEはさまざまな販売チャネルに対応した広告施策が実施できるので、購買データを基にしたフルファネルマーケティングにぴったりなサービスです。
中根:私も稲益さんが話したことに近いですが、「ユーザーが望めば、いつでも簡単に情報や商品を手に入れられる状態」に近づけるのが、DXではないかと考えています。当然、そのサービスがキャズム(製品・サービスが市場を獲得するにあたって、超えるべき溝=課題のこと)を超えて、幅広いユーザーに受け入れられていることが前提です。
キャズムを超えるには、ユーザーにとって必要な情報を、ユーザーが望む時間に、適切なメディアで届けることが大切です。一般的に、商材やサービスを訴求するメールやプッシュ通知などの開封率が50%を超えないのは、大抵の場合、ユーザーが望む情報を届けられていないか、あるいはサービス商材やサービス自体に問題があるかのどちらかです。
LINEは8,800万人以上の月間利用者数(2021年3月末時点)と高いアクティブ率を誇り、もはやコミュニケーションインフラといえます。広告主はユーザーが求める情報を精緻に分析・整理し、LINE公式アカウントでメッセージを配信すれば、どのようなメーカーであっても50%以上の開封率は達成できると思います。実際、カネボウ化粧品は4つの商品ブランドで「LINEミニアプリ」と「LINE公式アカウント」を運用していますが、定常的に70%近い開封率を達成しています。
DX推進に寄与するLINEの「双方向性」と「リーチ力」
――次に、国内メーカーでDXがなかなか進まないのはなぜでしょうか?
稲益:最大の原因は、組織の縦割り構造にあると思います。たとえば、ECサイトを運営する企業を例にすると、新規獲得を担当する部署とCRMを担当する部署が衝突するのはよくある話です。前者はとにかく新規ユーザー数を増やす施策を、後者はリピーターを増やす施策を重視します。そこにシステム関係の部署が加わり、施策の実現性などについて意見を交わすとハレーションが起こり、話がなかなかまとまりません。組織間の壁が問題となって、新しいツールの導入やDXが進まないというのが、多くの企業の実状ではないでしょうか。
中根:確かに、各部署で追い求める数字やKPIが違いすぎるのは大きな課題ですよね。部署間の壁は極力取り去ってしまって、会社全体として達成するKPIを設定するのが本来あるべき姿です。たとえば、「店頭顧客数」や「EC利用者数」といった販売チャネルごとのKPIにこだわるのではなく、「年間顧客数」という会社全体で大きなKPIを設定する。それを達成するために各部署が協力して施策を実行する中で、DXも推進されるのではないでしょうか。
また、本気でDXを推進したいと考えるキーパーソンが社内にいると、DXは一層早く進みます。その際、デジタルスキルに長けていることよりも、自社の事業にどれだけ詳しいかが重要です。DXはデジタルの力で既存の課題解決を目指すことも包含しますから、外部のパートナー企業より、自社の強みや課題をしっかりと理解している社内の人間が推進するのが理想です。具体的にはトップセールスの営業担当など、普段からお客様に接し、顧客のニーズや購買行動をよく把握している方が熱量を持ってDXを進めると、良い結果が生まれると思います。
――DXを推進する際、LINEのどういった特徴が強みになるか教えてください。
中根:「メッセージ開封率の高さ」は大きな魅力だと思います。それを支えているのがLINEの「双方向性」です。私はマーケティング施策を実行するとき、ユーザーからのパーミション(許諾)を大切にしています。カネボウ化粧品が運用している4ブランドのLINEミニアプリでは、プッシュ通知を受け取る時間をユーザーが4つから選べるようにしています。人々のライフスタイルや価値観が多様化した現代において、ユーザーの意思を確認せずに自社都合で一方的なコミュニケーションを取るのは避けるべきです。
稲益:やはり「圧倒的なリーチ力」です。スマートフォンユーザーに最も利用されているコミュニケーションアプリがLINEですから、企業のマーケティング活動においても利用しない手はありません。ユーザーのスマホからほとんど消されることがないLINE内に、LINE公式アカウントなど“自社サービスの箱”を簡単につくれて、自由にサービスを設計・提供できるのは大きなメリットです。
たとえば、アパレルショップなどで買い物をしたとき、店員に自社アプリのダウンロードを勧められることがあります。会員登録に数分かかるのはユーザーにとってストレスですが、すでにインストールされているLINEを開き、企業のLINE公式アカウントを友だち追加すれば一瞬です。
膨大なコストをかけて自社アプリを開発しても、ダウンロードされない。ダウンロードされたとしても、すぐにスマホから消される。これらは多くの企業が抱えている課題です。自社アプリよりもLINEを活用したほうが、便利で、手軽で、費用対効果も高いということを、もっと多くの企業に知ってもらいたいです。
――そうしたLINEの強みを生かして、企業のDXの推進をサポートした例を教えてください。
稲益:メーカーではありませんが、全国展開している大手学習塾の課題をLINEで解決したことがあります。その学習塾は講師の大半が大学生のアルバイトなのですが、応募に際してはWebサイトでの仮登録後、研修先で本登録を行っていました。しかし、研修日時を失念するなどのケースが目立ち、十分な講師数を確保できていなかったのです。
そこで、求人LPでユーザーに自社のLINE公式アカウントを友だち追加してもらい、仮登録する導線を整えました。仮登録した学生の情報と友だち追加したユーザーのLINEアカウントを連携し、学生の希望する研修日時や場所に合わせたリマインドメッセージをステップ配信。結果として本登録がスムーズに進み、講師数が大幅に増加しました。DXというと大掛かりなものに感じるかもしれませんが、既存のサービスにLINEを取り入れるだけでも、課題解決には有効です。
LINEで「三方よし」のマーケティング施策を実現
――最後に、今後お二人がLINE Frontlinerとして取り組んでいきたいことについて教えてください。
中根:私はやはり、LINEミニアプリの効果的な運用方法などをお伝えできればと思います。ユーザーのパーミッションを取り、カスタマーサクセスを導くためのシナリオは無限にあるので、そのノウハウをご紹介したいです。
たとえば、複数ブランドでECサイトを展開しているメーカーであれば、初回利用時にユーザーにお気に入りのECサイトを選択してもらい、デフォルト利用するのもLINEミニアプリであれば実現可能です。ECサイト一覧から利用するサイトを都度選ぶといった煩わしさを省くことで、ユーザーはよりスピーディーに商品を購入することができるようになります。
その際、メーカーは自社のECサイトだけでなく、リテールが運営するECサイトも含めればリテールの満足度も高まるのではないでしょうか。
稲益:それはいいアイデアですね。私はヘアケア・スキンケアブランド「BOTANIST」(ボタニスト)の製造・販売を行う株式会社I-neの販売企画部長も務めているので、中根さんのいうユーザー、メーカー、リテールの「三方よし」を、LINEのサービスを使ってI-neでも実現していきたいと思います。
LINE Frontlinerとしては、これまで多くの企業のDXを推進してきた経験やDOTZで取り組む最新事例を、セミナーなどを開催して今後さらに広めていきたいですね。LINEを活用すればさまざまな施策が実行できますが、まだまだ十分に認知されているとはいえません。LINEで実践できる最新のマーケティング手法を、皆様にご紹介していきたいと思います。
(取材・文:相澤良晃、写真:高橋枝里)
- 関連タグ:
- #LINE公式アカウント #インタビュー
この情報は役に立ちましたか?