地域に密着した飲食店の宣伝販促|人手不足と物価上昇にLINEで挑む
LINE Frontliner / 株式会社CRMマーケティング 代表取締役社長 野尻 猛氏
新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大による対面制限で大きな影響を受けた外食産業は、コロナが5類に移行してから急速に需要が戻りつつあります。一方で、原材料不足やエネルギーの高騰、それに拍車をかける円安の進行などにより物価高はとどまるところを知らず、慢性的な人手不足も解消できていません。特に都市部と比べて人口が少ない地方にある地域に密着した飲食店の場合、こうした課題はより切実なものとなっています。
この課題に地方の飲食店はどのように立ち向かえばよいのでしょうか。居酒屋、カフェ、バル、定食屋などさまざまな業態の飲食店の課題をマーケティングコンサルタントとして解決し、売上を拡大させる知見を持つLINE公式アカウントの認定講師「LINE Frontliner」であり、株式会社CRMマーケティング(以下、CRMマーケティング)代表取締役社長の野尻猛氏に話を聞きました。
LINE Frontliner: LINE公式アカウントやLINE広告などへの高い知識レベルと豊富な経験を備えた認定講師
ドラッグストアの経営企画の責任者、飲食FC本部の経営戦略室の責任者を経て、2005年クラブネッツ入社。大手企業の新規顧客創出専門のメディア事業本部を設立。多くのマーケティング戦略やCRM施策と関わる中で、LINE事業にも営業戦略・有効活用事例作りに多数関わる。
東日本ソリューション事業本部の上席執行役員本部長として従事後、SNSマーケティング支援事業専門の株式会社CRMマーケティングを立ち上げ、現在はスモールビジネスやナショナルブランド等のマーケティング支援のコンサルティングを実施中。
監修書籍『はじめてでもできる! LINEビジネス活用公式ガイド 第2版』
‐「高度な活用・業界別ノウハウ」飲食店パート‐
監修動画「飲食業界の課題をLINE公式アカウントで解決」
目次
1. 飲食店の売上増と離職防止は「メリットと目的の共有」で実現
――日本フードサービス協会の調査によると、コロナ禍が収まり外食需要は上向きになりつつも、物価高や人手不足の常態化など依然厳しい動向にあるようです。特に地域密着型の居酒屋やカフェなどの小規模飲食店の場合、甚大な影響があると思いますが、飲食店はどのような課題を抱えているのでしょうか。
野尻氏:人手不足はどの飲食店も抱えている課題だと思います。課題への対応は大きく二分しており、「どうしようもない」という方もいれば「解決に向けて努力しよう」という方もいます。当然ですが1人営業には限界があるので、解決に向けた努力を行うのが賢明です。
――人手不足の解決には、具体的に何をすればよいでしょうか?
野尻氏:コンセプトが明確で、スタッフが働くメリットを感じているお店は離職率が低い傾向にあります。人手不足に悩んでいるお店は昇給の仕組みを考え直し、たとえば3カ月ごとのボーナスなどを取り入れて、目標を達成したアルバイトスタッフには「ありがとう」と感謝を伝えてボーナスを支給してみるのもいいと思います。3カ月後に10万円のボーナスを払うのであれば、そこから逆算して売上目標を設定することで、「ボーナスを目指して、まずは3カ月がんばってみよう」と店全体のモチベーションを生み出すことができる。そうやって短期的なゴールをつくりながら経営し、働く人を大切にするのが、離職防止に必要だと思います。
――そうすると「どうやって売上を上げればいいのか」という課題に突き当たりますね。
野尻氏:地方にある地域密着型の飲食店のなかには、売上アップのために何をすればいいかわからない方もいるし、集客が必要とわかっていても具体的な手段について悩んでいる方もいます。そうすると「周りがSNSをやっているからうちでもやろう」といったように、目的をよく考えずにいろいろ手を出してしまいがちです。
集客や販促を成功させるには、「何のためにやるのか」の目的部分をしっかりと考えて、スタッフを巻き込んでいかねばなりません。
たとえば「あと100人のお客さまを集客して、そのお客さまが現在の平均リピート率で来店してくれたら、目標売上が達成できる」と説明し続けると、スタッフたちにも目的意識が少しずつ浸透します。きちんと目的を紐解いて、集客や販促のアクションにつなげていけば、売上は自然に上がっていくはずです。
2. 地域密着店ではお客さまが「次も来たくなる」動機づくりが大切
――地方にある地域密着店、たとえば居酒屋、カフェ、バル、定食屋のような飲食店が売上を上げるにはどうすればよいのでしょうか。
野尻氏:前提として、地方にある地域密着店は、黙っていても人が集まってくる都心の駅前や商業施設のようなお店とは違うと考えてください。地方の飲食店は、お客さまが帰るときに「次に来店する目的」をしっかりつくることが大切です。そうしないと他店に負けてしまうからです。
たとえばカフェですと、10杯分の券を1冊買うと1杯分の無料チケットが付いてくる「コーヒー券」などの施策が良いかもしれません。コーヒー券があると次回来店を促せますし、地域に密着したカフェでは、店主と話すのを楽しみに毎日通ってくれる常連さんもいらっしゃいますよね。どんなに小さい町でもカフェや喫茶店は3〜4軒あるので、「また次もこの店に来よう」という動機付けが必要です。コーヒー券は再来店にとって有効な手段の1つです。
――「また来たい」という思わせるきっかけを提供するのが大切なのですね。その手前の、新規のお客さまを呼び込むために有効な手段を教えてください。
野尻氏:初めて来店いただくには少し工夫が必要になります。私は地方にある地域密着店の案件を手掛ける時は、必ずその土地を訪れるようにしています。実際に現地を視察すると、人通りが少なく集客に不安を感じるエリアもあります。周囲が暗い場合、例えば19時オープンの店であれば、オープン直前に店頭で何らかの販促物を掲示しても、周りが暗すぎて何も見えず、販促に気づいてもらえないということが平気で起こります。オープンと同時の販促では遅すぎるのです。
人通りが少ないエリアでも多くの成功事例が出ているのが、昼間に掲出する「A型看板」です。A型看板は横から見ると「A」のように見えるスタンド式の看板で、店名やメニューを貼ったり、日替わりメニューを黒板に書いたり、さまざまな用途で使用できます。
自分の店のカラーが出るような内容で、何なら通りがかりの人がスマホで撮影したくなるようなA型看板を作成して、それをまだ明るい昼間のうちから掲出すれば人々に認知してもらえるでしょう。
野尻氏:繰り返しになりますが、地方にある地域密着型の飲食店は、東京をはじめとする都心の飲食店と同じやり方では勝てません。ただし、同じエリアにある似た業態の店舗に勝つ方法は多くあり、A型看板はその1つです。
たとえば、お店で使っているビールジョッキ大の大きさの紙を貼って「これで1杯380円です」、スマホで撮った朝獲れの魚を使って「本日のお刺身です」、時には店主の顔を出して「私が調理します」といった内容でもいい。要は、看板を見ただけで「このお店は面白そうだな、行ってみたいな」と思ってもらえるかが勝負の分かれ目です。
看板ひとつで来店客の人数は大きく変わりますし、それによりお店の雰囲気や働くスタッフのモチベーションにも良い影響を及ぼすでしょう。A型看板はお店の前を通らなければメッセージが届かないという弱点はあるものの、お店がまだ開いていない時間でも店舗をアピールし、認知を上げることにつながります。
3. 地方の飲食店の集客から再来店までサポートするLINE公式アカウント
――地方にある地域密着店にとって、「認知の獲得」と「次回来店の目的づくり」が売上アップに特に重要なのですね。では、集客・販促におけるデジタル活用の方法についても教えてください。
野尻氏:今、飲食店はさまざまなデジタル施策を展開しています。先ほど述べたSNSもそうですが、いわゆる“映え写真”で話題をつくったり集客につなげたりするお店はとても多いです。そのため、同じやり方で勝ち残っていくのは非常にハードルが高いと言えます。
私は、飲食店のみなさんが本当に売上を上げたいと思っているなら「LINE公式アカウント」の活用が最適だと思います。LINE公式アカウントは、友だち追加してくれたお客さまに気軽にアプローチでき、飲食店に必要な機能が無料プランから利用できるのも魅力です。これと同じことができるサービスはほかにありません。
たとえば、私がコンサルティングを担当したあるお店では、LINE公式アカウントを活用して「サイコロ祭り」というユニークなイベントを実施し、ファンを拡大していました。このイベントでは、サイコロを3つ振り、コーヒー券1冊分の値段で出た目の数だけチケットをもらえるというイベントです。コーヒー券1冊は11杯分(10杯分の値段で1杯サービス)なので、通常でも1杯分は保証されますが、目の出方によっては10杯分の値段で追加で3〜18杯のコーヒーが飲めるチャンスもあります。このイベントの案内をLINE公式アカウントの友だちに一斉配信することで、お客さまは「またサイコロ祭りを開催してくれるかもしれない」と期待し、次のイベント案内までブロックせずに待っていてくれます。
――遊び心がある上、ブロック防止にも役立つのですね。他にどのようなLINE公式アカウントの活用アイデアがありますか?
野尻氏:LINE公式アカウントでお店の裏メニューやお得な情報を配信するのもお勧めです。「LINE限定の情報があるようだ」と話題になると、お店に来たお客さまがどんどん友だち追加をしてくれます。
あるお店では、テーブルの上にLINEの公式キャラクターの人形を置いて友だち追加を促していました。先ほどのA型看板にLINE公式アカウントの友だち追加用QRコードを載せて「時間がある時に見てね」とメニューに誘導して、来店のきっかけをつくったお店もあります。
――いかに友だち追加してもらうかが重要なのですね。メッセージの配信効果を高くするには、具体的にどうすればいいですか?
野尻氏:LINE公式アカウントには3つの料金プランがあり、それぞれに無料のメッセージ通数がついています。
それぞれの違いは毎月送信できる無料メッセージの通数。
なお、料金プランはアカウント作成後にアップグレード、ダウングレードが可能
野尻氏:メッセージ配信は効果的に行うに越したことはありません。ポイントは、なるべくシンプルで短いメッセージを送ることです。人間が一度に理解できる情報量は限られるので、メルマガのように長い文章をいくら送っても、お客さまの記憶になかなか残りません。メッセージの内容は、文章も画像もなるべくシンプルなものを心がけてください。
そして、ぜひ活用してほしいのがLINE公式アカウントの「ステップ配信」です。
ステップ配信は、設定した条件に合うユーザーにメッセージを自動配信できる機能です。たとえば友だち追加した3日後に「当店のコンセプト紹介」を送ると、受け取った人は「これは3日前に行ったあのお店だ」とまた思い出してくれます。3日前くらいなら、まだお店のことが記憶に残っているので大きな違和感はありません。
そして、その3日後に「当店の名物メニュー・ベスト3」を送ってみましょう。そうすると「また行きたい」と気持ちが湧いてきます。さらに3日後に、お店のこだわりポイントなどを送ると、お客さまの気持ちはリピートへとどんどん傾いていきます。
最後に「500円割引クーポン」などを配信すると決定打です。それが大きな来店動機になり、お客さまはまたお店に来店してくれるでしょう。小出しにメッセージを送ることで、お客さまの頭のなかでお店の存在が残ります。そこでクーポンを配信すれば、もう足はお店に向かっているといっても過言ではありません。
どんな繁華街にあるお店でも、一度来店したお客さまが次に来店するまでには一定の期間を要します。地方にある地域密着型の店舗ならば、なおさらステップ配信で小出しにメッセージを送り、効果的にお店をアピールしてみてください。
――ステップ配信を使うとメッセージ配信を自動化できるので、担当者の工数も抑えられそうですね。LINE公式アカウントではメッセージフォーマットが複数ありますが、野尻さんのお勧めはありますか?
野尻氏:いろいろなメッセージフォーマットがありますが、「カードタイプメッセージ」は見ていて楽しいですし、お客さまが画面をスワイプしながら「自分で選んでいる」という体験を提供できるメリットもあります。
私のクライアントで、冷凍ケーキの販売業を営む企業様がいるのですが、新作ケーキの発表をLINE公式アカウントのカードタイプメッセージで配信しています。メッセージを受け取ったユーザーはカードを左右にスワイプするのですが、その行為がすでに「どれを購入しよう」と選んでいる感覚に近い。最初は買わないつもりでも、アパレルの店舗で洋服を見ているうちにお気に入りを見つけてしまったときのようなものです。実際にその企業様では、カードタイプメッセージで新作メニューを配信したところ、売上がアップしました。
効果的に活用することでユーザーの目を楽しませることが可能
野尻氏:またカードタイプメッセージを使って、新作メニューと一緒にクーポンをさりげなく配信した居酒屋さんもあります。そうやって見つけたクーポンは、つい使ってみたくなるのが人間心理で、実際にその店舗ではカードタイプメッセージの配信後、来店数やクーポンの使用率がアップしました。
クーポンは新規・既存どちらのお客さまにも有効ですが、配信する際は画像が大きく表示され、印象に残りやすい「リッチメッセージ」を使うとより効果的です。通常のメッセージ配信でクーポンを添付した時の使用率が5%だったところ、リッチメッセージで送った時は16%にアップした事例もあります。
「リッチメッセージ」は多くの情報を伝えられる
――ほかにLINE公式アカウントのお勧め機能があれば教えてください。
野尻氏:あとは「ショップカード」です。紙のポイントカードに代わり、友だち追加してくれたお客さまにLINE上で来店時や商品購入時にポイントを付与できる機能です。ショップカードを使えばリピートを促せるだけではなく、お客さまの来店頻度・リピート率なども把握できます。
特典の設定や利用データの分析も可能な「ショップカード」
トーク下部のリッチメニューにリンクさせて取得を促進させる
野尻氏:過去にある飲食店のコンサルティングを担当した際、担当者から「当店の平均リピート率は20%」と説明を受けました。しかし、お店の営業風景を数日間観察したところ、そんなに高いリピート率があるとはどうしても思えなかったのです。そこで、お店にLINE公式アカウントのショップカード用QRコードを置き、お客さま全員に来店ポイントを付与したところ、リピーターの数は説明された数値の約半分であることがわかりました。
店舗経営に関する数値や評価を把握したいのならば、このようにLINE公式アカウントのショップカードを活用するといいでしょう。ショップカードはワンクリックで取得できるため、グループで来店したお客さま全員に取得いただき、あとはステップ配信を組み合わせてお得な情報などを小出しに配信すれば、多くのリピーターを育成できます。
4. 飲食店が日本の活気を支える、LINEはその一助となる
――LINEを活用してお客さまとつながり、効果的なタイミングでメッセージ配信や諸機能を利用することで、リピート率や売上を上げていくことができるのですね。
野尻氏:その通りです! 課題が多くあるからこそ、ぜひ地方にある地域密着型の飲食店オーナー様にはLINEを活用してほしいと多います。
私は、日本を元気にするにはまず外食産業が元気であることが大切だと考えています。そして「選ばれるお店」になれるかどうかは、常にお客さまの選択肢に入るような宣伝や販促アプローチが必要です。
LINEの活用では、お客さまを囲い込んだ後、お店からのメッセージを的確に伝えていくことが基本となります。そこにお客さまが配信を楽しみに待てる仕掛けなどがあれば、配信効果はさらに高まるでしょう。
飲食店の皆さんには、LINEの活用を通じて「自分たちが日本の活気を作っている」くらいの気持ちでお店を盛り上げていっていただきたいです。そうした勢いや楽しい気持ちがお客さまに伝われば、売上という形で必ず返ってくるはずです。
(公開:2024年8月、取材・文/岩﨑史絵、写真/慎芝賢)
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