株式会社大丸松坂屋百貨店(以下、大丸松坂屋百貨店)は、2021年3月からサブスクプリション型のファッションレンタルサービス「AnotherADdress(アナザーアドレス)」を開始しました。そのサービスのインターフェイスとして利用されているのが、LINE公式アカウントです。AnotherADdressを企画・運営している大丸松坂屋百貨店の田端竜也氏(以下、田端氏)と窪川有咲氏(以下、窪川氏)に、同サービスにLINEを導入した背景や得られた成果、今後の展望などについて話を聞きました。
- AnotherADdressの参加ハードルを下げながら、ユーザーとフラットにコミュケーションを取って距離を縮めたい
- AnotherADdressの会員登録にLINE公式アカウントの友だち追加とアカウント連携を必須にした
- サービスを円滑に運営するため、LINEのMessaging APIを用いてメッセージを自動配信
- ユーザーからの問い合わせ対応には、電話ではなく主にLINEチャットを活用
- サービス開始からわずか1カ月で無料会員数が3,500人を突破
- 最小人数でサービスを運営するとともに、コールセンター設置などにかかるコストを削減できた
- ユーザーのサービス退会率は全体の1%程度を維持し、約5%はレンタル品を購入するなどブランドの売上向上にも貢献
株式会社大丸松坂屋百貨店 経営戦略本部DX推進部 AnotherADdress事業責任者 田端竜也氏
株式会社大丸松坂屋百貨店 経営戦略本部 DX推進部 AnotherADdress CRM担当 窪川有咲氏
月額1万1,880円で洋服を3着レンタルできるサブスクリプションサービス
老舗デパートの「大丸」と「松坂屋」を運営する大丸松坂屋百貨店は、2021年3月から30~40代の女性をメインターゲットにしたサブスクリプション型のファッションレンタルサービス「AnotherADdress」をスタートしました。月額1万1,880円で、毎月3着まで自由に洋服をレンタルできるというサービスです。
2021年11月現在、AnotherADdressでは50を超える有名ブランドの洋服が多数ラインナップされています。同サービスを統括する大丸松坂屋百貨店の田端氏は、「サービスの立ち上げには2つの目的があった」と振り返ります。
「ひとつは、サステナブルなビジネスモデルの構築です。これまで大量生産・大量消費によって成長してきたファッション業界ですが、近年は環境意識の高まりから、従来のビジネスモデルを敬遠するお客さまも増えています。そうした変化を踏まえ、環境に負荷をかけない新たなビジネスモデルが必要だと感じていました。
もうひとつは、多くの人にファッションを楽しんでもらいたいという思いです。経済が停滞するなか、洋服にお金をかけられないという人も増えています。サブスクリプションにすれば、高品質の洋服を安価に提供できると考えました。憧れのブランドの洋服を自由に選べる楽しさを、多くの女性に届けたいと考えています」(田端氏)
AnotherADdressは、サービス設計の中心にLINEを据えています。ユーザーは会員申込から注文、返却連絡まで、全ての操作がLINE公式アカウントで完結する仕組みです。
「国内で多くのユーザーに利用されるコミュニケーションアプリ『LINE』を使えば、サービスの利用ハードルを下げるとともに、お客さまとフラットにコミュケーションが取れ、距離を縮められると考えました。
AnotherADdressの会員登録には、LINE公式アカウントの友だち追加とアカウント連携を必須としています。サービスの企画段階で実施したユーザー調査で、LINEのアカウント連携に抵抗を感じる方が予想以上に少ないことがわかりましたし、メールアドレスでは情報をお届けしにくいお客さまもいます。後々、顧客管理を円滑にするためにも、LINEのみでサービスを提供することにしました」(田端氏)
ローンチ当初は専用アプリを開発することも検討したそうですが、「今は考えていない」と田端氏は明言します。
「LINE公式アカウントは、リッチメニューに『マイページ』や『お気に入り』などサービスに関する外部リンクを自由に設定でき、お客さまの利便性を確保できます。加えてiOSアプリは年々、更新対応の難度が上がっていますし、新たに専用アプリを開発・導入することで得られるメリットは少ないと感じています」(田端氏)
Messaging APIを活用してメッセージを自動配信
大丸松坂屋百貨店はAnotherADdressのサービス開始にあたり、KPIを「無料会員数」に設定しました。その狙いについて、LINE公式アカウントの運用を担当する同社の窪川氏は「まずは無料会員になっていただき、ユーザーとつながることが大切」と話します。
「いきなり有料会員に登録いただくのは、なかなかハードルが高いと感じます。まずは興味関心のあるお客さまに『無料会員』や『友だち』になっていただき、コミュニケーションが取れる状態になることを重視しました。その後、サービスの情報などを継続的にお届けし、徐々に有料会員化できればと考えています」(窪川氏)
AnotherADdressでは無料会員数1,000人を初年度の目標としていましたが、ネット上での口コミが広がるなどして、サービス開始からわずか1カ月で3,500人を突破しました*。
※レンタル注文が集中するのを防ぐため、2021年12月現在、無料会員登録いただくと、2022年3月頃に有料会員登録のご案内予定
想定以上のスピードで成長するサービスを円滑に運営するために、LINEのMessaging API *を用いたメッセージ配信が行われています。会員登録の完了時、洋服の注文や返却完了時などにメッセージを自動で配信することで、省人化を実現しました。
「Messaging API」は、LINE公式アカウントを通じたユーザーとの双方向コミュニケーションを実現する、LINE株式会社が提供するAPI(Application Programming Interface)です。Messaging APIを活用することで、ユーザーへの一方的なメッセージ配信だけでなく、特定のユーザーに対してより最適化されたメッセージを送り分けることができるようになります。さらに、ユーザーの同意のもと、企業の持つ既存のデータベースや自社システムとLINE公式アカウントを連携させることで、顧客管理(CRM)ツールや、業務ソリューションツールとしての利用も可能になります。 (※LINE株式会社では、LINE公式アカウントに紐付いた各企業の顧客データを保持することはありません)
LINE公式アカウントのメッセージは開封率も高く、毎週金曜日に配信する新着アイテムに関するメッセージの開封率は7割を超えています。
「LINE公式アカウントの運用は、私を含めて2人で担当しています。サービスに関するお問い合わせはLINEチャットで受け付けていますが、不満の声はほとんどありません。また、電話でのお問い合わせはこの半年でたった1件しかありませんでした。コールセンターを設置する必要がないので、コスト削減においてもLINEは利用メリットが非常に大きいです。
お客さまから送られるLINEチャットでは、オーダーや集荷時間の変更のほか、『こういうブランドを増やしてほしい』といった要望が寄せられます。LINEスタンプ付きでLINEチャットが送られてくることもしばしばあり、こうしたフラットなコミュニケーションは日常に浸透したLINEならではの特徴です。LINEを活用することで、お客さまの顔がよく見えていると感じています」(窪川氏)
退会率1%。ニーズを捉えたサブスクリプションサービスの拡張を目指して
サービス開始から約8カ月が経過した現在、AnotherADdressの手応えについて田端氏は次のように語ります。
「サービス開始時は、一部のブランドさまから『レンタルサービスは店頭顧客を奪い、売上に影響を及ぼすのではないか』と懸念の声もありましたが、現在は『ブランドの認知向上につながる』と好評価をいただく機会が増えました。
また、レンタル品の割引販売を行う仕組みも整えており、実際にお客さまの約5%にレンタル品を購入いただいています。サービス退会率は全体の1%程度を維持し、お客さまからも一定の評価を得られていると考えています」(田端氏)
今後は、提携ブランドを増やしてアイテムを拡充し、「会員数3万人、年商50億円規模を目指す」と田端氏は意気込みます。
「『情報コンテンツ』のサブスクは一定の浸透を見せましたが、『物』のサブスクはまだまだ黎明期です。AnotherADdressは女性ファッションのみ取り扱っていますが、メンズ、キッズファッションやアウトドアグッズ、家具、アートなど別のジャンルにも拡大する余地があるかもしれません。
物が売れないといわれる時代で、サブスクリプションサービスの領域を広げていくことが、小売業界にとって重要だと考えています。LINEを活用してAnotherADdressのサービス提供を盤石にするとともに、今後はLINE広告などを活用するなどして新規会員の獲得を目指します」(田端氏)
(公開:2021年12月/取材・文:相澤良晃)
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