1916年に宮崎県都城市で創業した霧島酒造株式会社(以下、霧島酒造)は、芋焼酎「黒霧島」で知られる全国でも有数の焼酎メーカーです。近年は人口減少や若年層のアルコール離れによって酒類全体の消費量が低下し、業界全体の売り上げも下降傾向にありました。その打開策としてLINE公式アカウントを開設した霧島酒造の大久保昌博氏(以下、大久保氏)に、アカウント開設の背景や結果、運用方法などについて話を伺いました。
- ハガキやWeb以外のキャンペーン応募チャネルを導入したい
- 次世代のファンとなる若年層の新規ユーザーを獲得したい
- キャンペーン応募チャネルの一つとしてLINE公式アカウントを開設
- 応募チャネルをLINEに一本化するとともに、友だちとの継続的なコミュニケーションを実施
- キャンペーン応募者の20~30代の割合が、前年のキャンペーン時に比べ232%増加
- 季節限定商品の訴求ではROAS208%記録。LINE公式アカウントから通販商品の購買につながることも実証できた。
キャンペーン応募チャネルの一つとしてLINE公式アカウントを開設
2019年に創業103年を迎えた霧島酒造は、1998年に発売した芋焼酎「黒霧島」の大ヒットとともに一気に売り上げを伸ばし、焼酎売上高では2012年から7年連続で首位を誇る酒造メーカーです。酒類の中でも本格焼酎という商品特性によって年配層から支持を受けていますが、近年の人口減少やアルコール離れによって、若年層への訴求が業界全体での課題となっていました。
霧島酒造本社工場
「当社でも若年層の新規ユーザーを獲得し、次の時代のファンを育てていくためのマーケティング施策が重要なポイントだと認識していました。そこで注目したのが、全国各地に多数のユーザーを抱えるLINEというプラットフォームでした」
同社が最初に着手したのが、これまでキャンペーンなどの応募方法として活用してきたハガキとWebの応募チャネルに、LINE公式アカウントを新しく加えることでした。
「2017年に行った消費者還元型のキャンペーンで、初めてLINE公式アカウントを開設して応募チャネルとして活用しました。これまでの応募はハガキが大半を占めていましたが、結果的にWebとLINEによるデジタル経由の応募者数が倍増し、20~30代の応募者も同様に増加していたことが分かりました」
デジタル経由応募者数は218%、デジタル経由応募者数の内訳でも20~30代の応募者が232%も増加した
LINEの有用性を実感した同社は、キャンペーン名で開設したLINE公式アカウントのアカウント名を「霧島酒造」に変更し、キャンペーンを契機に友だちとなったユーザーに対して継続的な情報発信を開始します。
霧島酒造株式会社 商品ラインナップ(一部)
「これまで、Web経由での申し込みはキャンペーンごとに特設サイトを作成し、そこからお客さまに応募していただく方法を取っていました。しかし、キャンペーンの成果や得られた個人情報については毎回破棄していたため、次のキャンペーン時に活用することができず、お客さまと継続したコミュニケーションが取れていませんでした。霧島酒造のLINE公式アカウントをスタートするに当たり、応募チャネルとしてだけでなく、お客さまへの情報発信チャネルとしても活用していこうと考えました」
2回にわたるキャンペーン結果により、応募チャネルをLINE公式アカウントに一本化
2018年には2017年に引き続き、南九州の方言「だれやめ(※1日の疲れを晩酌でリセットすること。「だれ」は疲れ、「やめ」は止めるを意味する)」という文化を訴求するキャンペーンを実施しました。
LINE公式アカウントのリッチメニュー
「LINE公式アカウント経由での応募方法は、商品に付属している応募券のシリアルコードをトーク画面に入力し、枚数に応じた商品を選択するという形式です。2017年のキャンペーンでも成果を実感できましたが、2018年のキャンペーンでもデジタル経由の応募者数に加え、LINE経由での応募が15%も増加したという結果が得られました。霧島酒造としてのLINE公式アカウント開設に加え、お客さまに対する定期的な情報発信により、応募チャネルとしての認知が広がった結果だと思います」
前年に引き続き、デジタル経由応募者数は155%、デジタルにおけるLINE経由での応募がWEBを上回り6割に。
2017年、18年と2度にわたるキャンペーンの結果を受け、霧島酒造はこれまでハガキやWebでも受け付けていた応募チャネルをLINE公式アカウントに一本化します。
「当社のロイヤルユーザーは若年層ではなく高齢層のため、商品を購入して応募するというキャンペーンを前提に考えると、LINEへの一本化は間違った選択だと思う方もいるかもしれません。しかし、8,200万人(2019年9月末時点)という圧倒的なユーザー数に加え、社内でも多くの人がLINEを毎日のように活用しているという実感を持っていました。さらに、データの蓄積と活用という意味でも次なる施策につなげることができ、結果的にお客さまのエンゲージメントを高めることができると考え決断しました」
LINEを通したロイヤルカスタマー育成への挑戦
現在、霧島酒造のLINE公式アカウントでは、キャンペーン連動のほかにも商品紹介やイベント告知などの情報を定期的に配信しています。特に通販限定や季節限定の商品を紹介するメッセージ配信の反応が良好で、バレンタインデーに合わせた限定商品告知の際には、CVR2.8%、ROAS(広告費に対して得られた売上の割合)208%を記録。友だちへのメッセージ配信が、確実に売り上げに貢献しているという結果が出ています。
LINE公式アカウントの運用については、月ごとに社内担当者の持ち回り制で、代理店の力も借りながら配信内容やクリエイティブを決定します。
「持ち回り制に関しては、関係者全員のスキルを平準化することに加え、LINEというチャネルの特性を多くの社員に体験させ、今後の全体戦略に生かしていくという意図があります。配信内容に関しては、友だちのエンゲージメント強化、通販商品の販売促進目的が中心で、サイト来訪率やブロック率をKPIに、キャンペーン時期はLINE経由での応募率などを指標として見ています」
霧島酒造株式会社 企画室 PR係 係長 大久保 昌博氏
現在、霧島酒造のLINE公式アカウントの友だち数は約18万人。今後、応募チャネルの一本化によって、30万人から50万人の友だち数を見込んでいるといいます。友だち数の増加に伴って同社は今後、一斉配信ではなくセグメントを前提としたメッセージ配信が重要になると考えています。
「LINE公式アカウントは従量課金制のため、友だち数の増加はありがたい反面、コスト意識を強く持つことが大切だと認識しています。そこで、MAツールを導入し、一人ひとりのお客さまがどんな状態にあるのかを見極め、適切な情報配信を行っていこうと考えています」
最後に、今後の展望について以下のように語ります。
「当社にとってデジタル施策の重要性は今後、ますます高まっていくと思います。現在、その中で最も重要なチャネルがLINEです。応募受け付けやメッセージ配信だけでなく、コミュニティー形成などを含めた全てをLINEで完結させることができると良いと考えています。今後は弊社商品を購入したことがないような人でもLINE公式アカウントの友だちになってもらい、丁寧なコミュニケーションによって当社のファンになってもらう――そんなロイヤルカスタマーの育成に挑戦していきたいです」
(公開:2019年11月/写真:酒生哲雄)
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