熊本市は2018年3月にLINE公式アカウントを開設。市内に居住する住民に対して定期的に情報を配信するとともに、2020年からは道路の破損や資源物持ち去りなどの情報提供を受け付ける通報サービスを開始しました。開設に至るまでの導入背景や市政での課題、LINE公式アカウントの活用方法について熊本市役所の担当者と、通報サービスの開発を担当したtranscosmos online communications株式会社(以下、toc)に話を聞きました。
熊本市役所 行政管理部 情報政策課 技術主幹
廣岡 達也氏
熊本市役所 都市建設局 土木部 道路整備課 技術主幹
永田 隆一氏
熊本市役所 政策局 総合政策部 広報課 参事
一野 達也氏
transcosmos online communications株式会社 執行役員 プロダクトサービス部 部長
大室 州氏
- 市の情報発信の仕組みを改善したい
- 行政情報だけでなく、災害時の共助を促進する地域情報を市民に届けたい
- LINE公式アカウントを開設し、複数のカテゴリから希望する受信情報を指定できる「情報配信」機能を実装
- 市民のニーズに応える形で家庭ごみの分別検索やコロナ情報の発信・検索機能などを追加
- 2020年6月からは新たに「市民レポート」サービスを開始
- 開設から3年で友だち数は約8万人を超え、多くの市民に情報を届けることができるようになった
- 「市民レポート」の開始により、市民の利便性向上だけでなく、市役所側も夜間受付や情報精度の向上で対応工数が削減できた
熊本地震をきっかけに「既存の情報発信に課題を感じた」
熊本市役所がLINE公式アカウントを開設したのは2018年3月、背景には2016年に熊本県・大分県で発生した「熊本地震」がありました。地震発生当時、熊本市が所有していたオンラインチャネルは限定的で、避難情報などの重要な情報を着実に届ける方法に課題を感じていたといいます。これを受けてTwitterなどのSNSも開設しましたが、それとは別に「市民・地域・行政をつなぐプラットフォームの役割を期待したい」と導入したのが、LINE公式アカウントです。
「地震の被害は熊本市の広範囲に及び、地域・エリアによって被災状況は異なりました。避難先の方々に対して速報性のある有益な情報を届けることが難しく、既存の情報発信手段にもさまざまな課題を感じました。そこで開設したのが、LINE公式アカウントです。他のSNSとは異なり、行政情報だけでなく、災害時の共助(地域内での助け合い)を促進する地域情報も積極的に発信していこうと考えていました」(一野氏)
LINE公式アカウントの開設時には、市政だより・ホームページ・SNSで案内したほか、LINE広告を含むインターネット広告、新聞広告、さらに路面電車のラッピング広告など、大規模なプロモーション活動を展開しました。
結果、開設1カ月の時点で友だち数は1万5,000人を記録。その後も、市の民間事業者と提携したクーポン抽選企画、市民の要望に応えてLINE公式アカウントに新たな機能を追加するなどで友だち数を増やしていきました。
「現在(2021年2月時点)、友だち数は8万人を超えています。当初の目標の1つが友だち数10万人だったので、このまま順調に増えていけば達成も見えてくる状況です」(一野氏)
API対応ツール「KANAMETO(カナメト)」で設計した充実の機能
熊本市のLINE公式アカウントでは、初回利用時に世代・性別・居住エリアとともに、LINE公式アカウントから取得したい情報を11項目(イベント・スポーツ・文化芸術・健康・子育て・障がい・しごと・くらしの安全・生活・市政だより・お知らせ)から選択することができます。以降、設定した項目に関する情報が、ユーザーにセグメント配信されます。
「受信設定」では世代や性別、居住地域とともに配信を希望する情報を一覧から選択することができる
「この機能を実現しているのが、API対応ツール『KANAMETO(カナメト)』です。カナメトとは、LINE公式アカウントでセグメント配信機能やチャットボット機能、チャットサポート機能などを一元管理で使用できるようになるメッセージ配信ツールです」(大室氏)
開設から1年が経過した頃には、カナメトの「キーワード応答」機能を活用し、トーク画面で「燃えるごみ」「埋め立てごみ」などの名称を入力すると、ごみの出し方・分別方法が検索できる新たな機能も実装しました。
また、直近ではLINE公式アカウントのリッチメニューに「新型コロナウイルス感染症について」という導線を設置したほか、市のホームページで公開される新規感染者の数をLINE公式アカウントから配信する取り組みも開始しています。
熊本市のLINE公式アカウントのリッチメニュー(2021年2月時点)
新機能「市民レポート」で安全・安心なまちづくり
さらに、LINE公式アカウントで新たに実装されたのが、2020年6月1日に実証を開始した「市民レポート」機能です。
「2020年4月にtocさんから市民レポート機能について提案をいただき、導入を決断しました。これまでの取り組みで、市から市民に対する情報発信については一定の成果が得られていました。市民レポートによって、市民から市への情報提供を受け付けることができれば、双方向型のコミュニケーションが実現できると考えました」(廣岡氏)
道路・河川・公園の損壊、資源物などの持ち去り通報などを受け付ける市民レポート機能では、LINE公式アカウントのトーク画面の案内に従って状況写真・日時・位置情報などを選択するだけで情報提供を行うことができます。個人情報の入力は不要で、時間も関係なく利用が可能です。
「市民レポート」機能。トーク画面内の選択肢をタップしていくだけで市への情報提供が完了する
「資源物などの持ち去りは、年間約300件の通報がありますが、市民レポート機能を実装した2020年の6〜12月の間だけで、LINE公式アカウント経由で300件の通報が届いています」(廣岡氏)
「市民レポート」機能で寄せられた通報内容は、窓口となる情報政策課から市の担当部門に連携され、地域パトロール強化・補修などの業務へ引き継がれます。連携先の1つである都市建設局土木部道路整備課の永田氏は、既存の仕組みと比較しながら次のように話します。
「通常、市民の方が道路の異常を見つけたときには、主に土木センターに電話連絡が入り、詳細な場所・内容を口頭でお聞きします。道路に関する通報だけでも年間3,500〜4,000件にものぼりますが、電話対応では詳細な内容を把握するのが大変でした。市民レポート機能では、写真・位置情報などから通報内容が正確に判断できるため、対応にかかる工数削減にもつながっています。また、外灯の不点灯など、夜間でなければわからない異常でも、LINE公式アカウントであれば24時間いつでも利用可能なため、市民の皆様の利便性も向上したと思います」(永田氏)
自治体への横展開で「行政サービスに好循環を生み出していきたい」
現在、LINE公式アカウントを導入する自治体は増加傾向にあり、活用方法や提供しているサービスにも独自性が生まれてきました。中でも、熊本市の友だち数8万人という数字は、政令指定都市(20市)の中で上から4番目、人口割合で見ると3番目に位置しています。
※いずれも2021年2月時点での数値
「友だち数以外の定量面での成果としては、トーク画面から新型コロナウイルス感染症について情報が検索できるチャットボットの利用回数が累積18万回、ごみ分別機能も6万回使用されています。定期的に市のホームページで行っていた市民アンケートも、LINE公式アカウントから配信するようになって回答者が1桁増えました」(一野氏)
また、市役所内でも各課がLINE公式アカウントを活用して積極的にPRを行っていくという機運が高まったほか、LINEというツールの利便性を実感したことで、独自に市域内の区役所や自治会長との情報伝達や業務連絡にLINEを活用する課も出てきています。
LINE公式アカウントの活用について、他の自治体が視察に訪れることもあるという熊本市役所。一野氏は最後に、今後の展望を含め自治体でのLINE公式アカウント活用について語ります。
「行政の仕事は市民の皆様の血税によって成り立っています。そのため、ITサービスの導入などに関しても、『予算がなければ動けない』という側面が常につきまといます。しかし、LINE公式アカウントの場合、利用自体は『地方公共団体プラン』があるので無料です。また、最近はLINEで住民票の申請ができるなど、多くの自治体で先行事例が生まれてきています。それぞれの自治体が『何を実現したいのか』『市民に何を還元したいのか』を見据えた上で、先行するユースケースを参考にLINE公式アカウントを活用していけば、国内の行政サービス全体がより便利に、使いやすくなっていくと考えています。熊本市もその流れに負けないよう、今後も市民の皆様のために充実したサービスを提供していきたいです」(一野氏)
(公開:2021年2月、取材・文:安田博勇)
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