バリューチェーン分析の例を紹介!各要素の分析内容や目的とは
バリューチェーン分析は、各ビジネス工程の価値を分析する手法です。本記事では、バリューチェーン分析の手順や業界別のバリューチェーンなどを紹介するので、自社や競合の分析に役立ててください。
バリューチェーン分析は、ビジネスの各工程が生み出す価値を分析する手法です。自社の強み・弱みを工程ごとに可視化できるため、マーケティング戦略のさまざまなシーンで活用されています。
本記事では、バリューチェーン分析の概要や業界別のバリューチェーン、分析手順などを解説するので、参考にしてください。
バリューチェーン分析とは
バリューチェーン分析は、商品やサービスを生み出して消費者に提供するまでの流れを工程ごとに分析するマーケティング手法です。バリューチェーンは「価値の連鎖」と訳され、バリューチェーン分析では各工程でどのような価値を生み出しているのかを分析します。
バリューチェーンは、商品・サービスの提供に直接関係する「主活動」と、主活動を間接的に支える「支援活動」の2つの要素で構成されます。例えば製造業なら、原材料の調達や製造、販売などが主活動です。一方、人事や技術開発などは支援活動になります。
工程ごとにどのような価値や利益を生み出しているのかを分析するバリューチェーン分析は、自社の強み・弱みを把握したり、無駄なコストがかかっている工程を明らかにしたりするのに役立ちます。各工程の価値が明確になれば、人的リソースやコストといった経営資源の再配分も適切におこなえるでしょう。
バリューチェーン分析は自社の分析だけでなく、競合他社の分析にも用いることが可能です。競合他社の強み・弱みは、差別化に取り組む際のヒントになります。
このように多くのメリットがあるバリューチェーン分析は、施策の立案や市場調査、既存事業の見直しなど、マーケティング戦略のあらゆるシーンで活用できます。
マーケティング戦略について、こちらの記事でも詳しく解説しています。ぜひ併せてご覧ください。
> マーケティングとは?種類や戦略を立てる際のポイントを解説
バリューチェーンとサプライチェーンの違い
バリューチェーンと混同されやすい用語に、「サプライチェーン」があります。サプライチェーンとは、商品の生産から消費者の手に渡るまでの流れのことです。サプライとは「供給」のことで、「供給の連鎖」と訳せます。
サプライチェーンは、モノの流れに着目するのが特徴です。「なにが、いつ、どこで製造・販売されたのか」を分析し、供給方法の見直しや効率化に役立てます。
一方、バリューチェーンで着目するのは、工程ごとに生み出される「価値」です。そのため、「価値や利益を高めるためになにをすべきか」が分析の軸になります。
このように、サプライチェーンとバリューチェーンでは着目するポイントが異なります。
業界別バリューチェーン
ビジネスの内容は業界によって大きく異なるため、バリューチェーンも業界ごとに違います。ここでは、業界別バリューチェーンの一般例を紹介するので、自社のバリューチェーン分析を進める際の参考にしてください。
製造業
原料調達→製造→出荷物流→販売→サービス提供 |
製造業は、実際にモノを作って販売するビジネスです。原材料を調達して商品を製造し、物流に乗せて消費者に届けます。価値や利益を向上させるには、調達コストの削減や商品の迅速な供給などが重要です。
サービス業
サービス企画→営業→サービス提供→料金徴収→カスタマーサポート |
サービス業は物理的なモノを販売するのではなく、サービスを提供して利益を生み出します。サービス業の場合、顧客との関係を維持するために、料金徴収後もカスタマーサポートによるフォローが必要です。
小売業
商品企画→仕入れ→店舗運営→集客→販売→アフターフォロー |
小売業は商品を仕入れて販売するビジネスです。まずどのような商品を扱うのか商品企画から始め、実際に商品を仕入れて集客し、顧客に販売します。商品は販売して終わりではなく、商品の返品交換などのアフターフォローも重要です。
運送業
運送用の車両や船舶の購入→営業→契約→貨物などの運送→車両や船舶の保守 |
運送業のバリューチェーンは、運送用の車両や船舶の購入から始まります。その後、顧客への営業活動を経て契約後、実際に貨物などを運送します。毎日使う車両や船舶は、適宜点検や保守も必要です。
金融業
商品企画→インフラ構築→店舗運営→営業→販売→資産運用→カスタマーサポート |
金融業は取り扱う金融商品やサービスを企画し、サービス提供のために必要なインフラを構築します。金融業のバリューチェーンには資産運用が含まれているのが特徴で、顧客に対しては適宜提案やフォローなどカスタマーサポートをおこないます。
農業
農機などの購入→生産→加工・保管→物流→販売 |
農業においては、これまでバリューチェーンの考え方があまり使われていませんでした。しかし、農業を含む農林水産業のバリューチェーンは「フードバリューチェーン」と呼ばれ、近年は浸透してきています。
農業のバリューチェーンは、農機など生産に必要な機器の購入からスタートします。その後、実際に作物を生産して加工・保管し、物流に乗せて消費者に届ける流れです。
バリューチェーン分析の企業例
では、実際にバリューチェーン分析の企業例を2つ紹介します。
大手自動車会社のバリューチェーン分析
最初に、大手自動車会社のバリューチェーン分析をおこなってみます。
商品企画→材料の仕入れと組立→工場での製造→自動車販売店への納車→アフターサポート |
大手自動車会社では、既存のバリューチェーンの維持・拡大のために新たなモビリティ事業の創出や、生産性の改善などに取り組んでいます。
また、カーシェアリングやサブスクリプションサービスといった需要が高まっているサービスも展開し、製造・販売以外の価値を提供しているのも特徴です。
サステナビリティへの取り組みとして、環境問題や人権問題を考慮したガイドラインの作成や、持続可能な天然ゴム調達への対応方針の策定なども進めています。
大手アパレル会社のバリューチェーン分析
次に、大手アパレル会社のバリューチェーン分析をおこなってみましょう。
商品の企画開発→仕入れ→店舗への搬入→集客および販売→アフターサポート |
この企業では、企画・デザイン・設計といった商品の企画開発をすべて本社でおこない、製造のみを担う工場から商品を仕入れています。販売状況を踏まえて本社で生産管理を追求しているため、工場での生産効率化に成功しました。
また、製品完成までのリードタイム短縮によって、2週間ごとに新商品を投入できています。
このように在庫数の削減や工場の稼働率の平準化を実現し、バリューチェーン全体を効率化できているのが同社の強みです。
バリューチェーン分析の各要素では何を分析するの?
バリューチェーン分析の例を踏まえて、ここでは各分析要素で調査する内容を具体的に解説します。
主活動
主活動については、以下の項目を分析します。
項目 |
分析内容や見るべきポイント |
購買物流 |
・原材料の調達や貯蔵、配分などの活動 ・調達コストや原材料の在庫管理、仕入先の信頼性や品質などを確認・評価する |
製造 |
・原材料を加工して商品を製造する活動 ・製造に用いる設備や技術者のスキルなども対象 ・製造工程の効率性や良品・不良品の割合、生産計画が適切かどうかなどを確認・評価する |
出荷 |
・製造した商品を梱包・保管をして、倉庫や店舗に配送する活動 ・配送時のルートやコストが適切かどうかなどを確認・評価する |
マーケティング・販売 |
・広告や販促、営業など、商品の販売に関わる活動 ・ターゲティングやプロモーションなど、マーケティング戦略が適切かどうかや、価格が適正かどうかなどを確認・評価する |
サービス |
・商品を販売したあとのメンテナンスやサポートなどの活動 ・顧客からの問い合わせ対応や保守サービスの内容が適切かどうかなどを確認・評価する |
支援活動
支援活動では、以下の項目を分析します。
項目 |
分析内容や見るべきポイント |
全般管理(インフラストラクチャー) |
・経理や総務、情報システムや経営企画といった企業活動全般が対象 ・デジタル化計画やコンプライアンス、CSRなど企業として適切な対応が取れているか確認・評価する |
人事・労務管理 |
・社員の採用や教育、給与の支払いや福利厚生などが対象 ・労働基準法が遵守されているかどうかや、適切な人員計画が立てられているかなどを確認・評価する |
技術開発 |
・新規商品の開発や既存商品の品質向上、生産の効率化などが対象 ・市場のニーズに合った開発計画を立てられているか、現在の生産効率はどうかなどを確認・評価する |
調達 |
・原材料や必要な物品の購入、仕入先との交渉や契約などが対象 ・調達プロセスやコスト、仕入先のCSR活動の内容などを確認・評価する |
バリューチェーン分析の手順
ここでは、バリューチェーン分析に取り組む際の具体的な流れを解説します。
自社のバリューチェーンの洗い出し
はじめに、自社のバリューチェーンを洗い出します。事業に関わる各工程を、まず主活動と支援活動に分けましょう。工程を主活動と支援活動に分けたら、先ほど紹介した各項目に当てはめていきます。
各工程・事業活動のコストの把握
次に、工程ごとのコストを明らかにしてください。各工程のコストを一覧にして、比率を計算してみましょう。どの工程にどのくらいのコストがかかっているのかを分析しやすくなります。
自社強みと弱みの把握
続いて、各工程の分析から自社の強みと弱みを導き出します。このとき、担当者の主観だけでなく社内外からの意見を参考にして、客観的・多角的な分析をおこなうのがポイントです。
VRIO分析で経営資源を最適化
VRIO分析とは、自社の強みについて次の4つの項目を分析する手法です。
Value(経済的価値) |
自社サービスや商品、社員のスキル、ノウハウ、システムなどにどれほど経済的価値があるか |
Rarity(希少性) |
自社サービスや商品、技術などを競合他社と比較したときに独自性があるか |
Imitabllity(模倣可能性) |
競合他社に模倣されるリスクは低いか |
Organization(組織) |
経済資源(人材や資金など)を生かせる組織づくりができているか |
バリューチェーンの工程ごとに上記の質問にYes・Noで回答していき、Yesが多い工程ほど競争優位性が高いと判断できます。Noと回答した工程については、原因の特定や改善策の検討が必要です。
バリューチェーン分析をおこなう際のポイント
バリューチェーン分析をおこなう際は、マクロな視点で分析できる3C分析を活用するとより効果的です。3C分析は外部環境と内部環境を分析する手法で、市場と自社の現状を照らし合わせて自社の強み・弱みを導き出します。
3C分析や競合調査について、こちらの記事でも詳しく解説しています。ぜひ併せてご覧ください。
> 3C分析の企業事例を紹介!3C分析の目的や分析時のポイントとは?
> 競合調査の方法とは?具体的なフレームワークや調査項目を徹底解説
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まとめ
バリューチェーン分析は、企業活動の各工程を主活動と支援活動に分けて、どの工程でどのような価値・利益が生まれているのかを分析する手法です。業界によってバリューチェーンの内容は大きく変わるため、本記事で紹介した業界別バリューチェーンや分析手順を参考に、自社の分析を進めてみてください。
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